【上昇気流】言論の自由のない国
このほど亡くなった小紙のカイロ支局長、鈴木眞吉さんは、毎日のようにニュース記事を送ってきたが、エジプト各地の観光名所も旅していた。日本からやって来た知人らを案内するためだった
シナイ半島にあるシナイ山は、預言者モーセが「十戒」を神から授かった場所と言われる。2007年5月の記事で10回近く登ったと書いていたが、その後も登っていたようだ。極度に乾燥していて、草木も乏しい
だが鈴木さんは、この山で雨と雷に見舞われた。雷に神の返答を聞いたというモーセの体験をしのび、「山々すべてが雨にけぶる姿は幽玄そのもの」と記した。
その経歴は風変わりだ。1948年宮城県に生まれ、早大商学部を卒業した後、青山学院大文学部神学科を卒業。神学者か牧師になりたかったようだ。ユニオン教会で牧師をしていたこともあり、さらに神学の勉強のため米国に留学。
2000年に小紙の記者となってカイロに赴任した。東西文明の衝突が語られた時期だった。キリスト教の神学研究者がイスラム文化圏に住んで、イスラム教とその社会や歴史を学ぶことになった
言論の自由のない国で、思うこと、感じたことを言えば法に引っ掛かる。帰国した際に聞く言葉は、ため込んだイスラム教への批判だが、内心の夢は東西文化の和解と一致。著書『イスラムに宗教改革は起こるか』(グッドタイム出版)は、両者の特色を対照しつつ、希望の出来事で筆を置いていた。