音楽で奇跡を起こす国
ブラジルのサンパウロ州にある港町サントスで、今月初め、路上で演奏していた若いチェリストがいた。ルイス・フェリペ・サリナス・アルメイダさんで、演奏中に生卵を投げつけられた(小紙10月17日付)。
卵は楽器に当たったが、淡々と演奏を続け、友人が動画に撮影していた。動画は公開され、それを知ったメトロポリタナ・デ・サントス大学で要職にあるビエガス氏が、青年を特待生として迎えることを表明。
青年は申し出を受け入れるそうだ。不思議な出会いがあるものだ。こんな例がほかにあるのかどうか知らないが、類似の物語を映画で見たことがある。『パリに見出されたピアニスト』というフランス・ベルギー映画だ。
日本では2019年9月の公開。主人公はパリ郊外の荒廃した地区で生まれ育った不良青年。幼い時にピアノの手ほどきを受けていて、駅に置かれたピアノを弾いていたところ、パリ国立高等音楽院のディレクターが聴く。
才能に惚(ほ)れて音楽院でレッスンを受けさせる。波瀾(はらん)万丈のドラマで、実際にあるような物語とは思えなかったけれど、事実は小説より奇なり。そしてもう一作、思い出したのはブラジル映画『ストリート・オーケストラ』。
サンパウロ市のスラム街に住む学生をメンバーに、オーケストラを作り上げる物語だ。S・マシャード監督のこの作品は実話で、練習場所がなくて屋外で始めたのが題名の由来。ブラジルは音楽で奇跡を起こす国らしい。