人間社会と自然現象の交錯


『旧約聖書』に記された事象について、10年ほど前「ノアの方舟」の断片が見つかったというニュースがあった。今回の話題は、かつての都市ソドムとみられる古代集落が、約3600年前に隕石が大気中で引き起こした爆発で破壊されたというものだ。国際研究チームの研究が、英科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された

ソドムを滅ぼしたのは隕石? 3600年前に爆発か

死海周辺の古代集落トルエルハマムの遺跡を調べる国際研究チーム(米カリフォルニア大サンタバーバラ校提供・時事)

ソドムは住民の淫乱や不道徳が神の怒りに触れ、天から降った硫黄と火によって滅ぼされたとされる

集落に広がる地層からは、外側が溶けてガラス状になった陶器の破片や2000度超の高温で泡立った泥レンガなどが見つかった。国家、地域のいわれを知るのに神話の存在は欠かせないようだ

寺田寅彦は「神話と地球物理学」という随筆で、神話の中にも「気候風土の特徴が濃厚に印銘」されているとして、八俣(やまた)の大蛇(おろち)の「身一つに頭八つ尾八つあり」は「溶岩流が山の谷や沢を求めて合流あるいは分流するさまを暗示する」など幾多の例を挙げている

その上で「神話が全部地球物理学的現象を人格化した記述であるという意味では決してない」。むしろ「神々の間に起こったいろいろな事件や葛藤の描写に最もふさわしいものとしてこれらの自然現象の種々相が採用されたもの」と推察している。炯眼(けいがん)だ

ノアの方舟、ソドム崩壊……。が人類史をつくっているようにみえる。その不思議さはもっと研究されていい。