地球上には人間というひとつの人種しか存在しない


写真家で環境保護論者のセバスチャン・サルガド、Instituto Terraの創設者(リオデジャネイロ:Wikipediaより)

写真家で環境保護論者のセバスチャン・サルガド、Instituto Terraの創設者(リオデジャネイロ:Wikipediaより)

 「日本人とかブラジル人という人種は存在しないのです。地球上には人間というひとつの人種しか存在しない」。2009年に東京都写真美術館で写真展が開かれた時、セバスチャン・サルガドさんが語った言葉だ

 サルガドさんは1944年ブラジルの生まれ。フランスで農業経済学を学び、71年に国際コーヒー機構(ICO)の経済学者としてアフリカの農業開発構想に携わった。視察したのはルワンダの茶園だった

 91年、写真家として再訪。94年に部族間の抗争で大虐殺が起こり、難民がタンザニア側に殺到した。サルガドさんが戻ってみると、かつて見た茶園に遺体が放置されていて、ショックを受けたという

 写真展の主題は「アフリカ」で、33年間通って撮影した成果だった。目にしたのは大自然の中で繰り広げられた虐殺や紛争、旱魃(かんばつ)による砂漠化、飢餓に苦しむ人々、そして流浪する難民だった

 このほどサルガドさんは、米国人チェロ奏者のヨーヨー・マさんらと共に第32回高松宮殿下記念世界文化賞の受賞者に選ばれた。ブラジルでは先住民らの生活を撮影して、国を代表する写真家

 作品は全てモノクロで、フィルムによる撮影にこだわっている。その独特の持ち味はデジカメで表現するのは不可能といい、フィルムをデジタル化した上でプリントしている。手の込んだ方法だが、フィルムは時間とともに劣化し、被写体の質感が変化するからだという。現代史の目撃者である。