「練習ハ不可能ヲ可能ニス」。慶応義塾長を…


 「練習ハ不可能ヲ可能ニス」。慶応義塾長を務めた小泉信三の言葉である。自身スポーツマンであった小泉は、学生にスポーツを奨励して「スポーツが若者に与える3つの宝」の一つに「練習は不可能を可能にするという体験を持つ」を挙げた。

 この言葉を、今われわれはテレビに映る東京パラリンピックの選手たちの姿から実感している。もちろん、誰よりも選手自身が実感しているだろうが、われわれにも多くの気付きを与えてくれる。

 競泳女子100㍍背泳ぎ(運動機能障害S2)で銀メダルを獲得し、今大会の日本のメダル第1号、日本歴代最年少メダリストとなった14歳の山田美幸選手。生まれつき両腕がなく、脚にも障害を持つが、晴れ舞台で力強い泳ぎを見せてくれた。

 泳ぐ姿が既に奇跡のように思える。試合後に語った「めっちゃ楽しめた」という言葉からは、スポーツの素晴らしさ、楽しさを改めて教えてもらった。

 水泳は小児ぜんそくの症状を改善させたいとの家族の思いから始めたという。その山田選手が選手として成長する陰には、亡くなった父親の一偉さんやコーチの野田文江さんの支えがあった。そういう意味でパラ選手のメダルは、皆で獲得したという実感があり、その分喜びは何倍にもなるだろう。

 小泉が挙げた「3つの宝」のあと二つは「フェアプレーの精神」と「友を得ること」。パラ選手の場合は「友と親身に支えてくれる人」となるようだ。