世界文化遺産への登録が決定した「北海道・…


 世界文化遺産への登録が決定した「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田各県)は日本最大級の縄文集落跡だ。縄文時代は日本独自の時代区分で、今から約1万5000年前から約2400年前までをいう。
 
 地球次元で見ると中国東北部やロシア極東では旧石器から青銅器時代の一部まで、ヨーロッパでは旧石器から鉄器時代および古代ローマ帝国の成立までの幅広い期間に相当する。人類の遠い記憶の時代である。

 世界遺産委員会は「先史時代の農耕を伴わない定住社会と複雑な精神文化を示している」と評価。そこでは生活文化も花開き、祖先崇拝や自然崇拝とともに、豊穣への祈念や生活上の絆の確認などが代を重ねてなされた。つまり、経済生活と文化を共存させる術(すべ)を知っていた。

 1万年以上にわたって気候の温暖化や寒冷化、自然災害といった環境の変化に適応しながら、採集、漁労、狩猟を基盤とした生活を継続できたのは驚嘆すべきことだ。遺跡はその精神文化・文明を今に伝えている。

 寺田寅彦はその著書『天災と国防』で「災禍の頻繁は一面から見ればわが国の国民性の上に良い影響を及ぼしている」とさえ述べ「数千年来の災禍の試練によって日本国民特有のいろいろな国民性のすぐれた諸相が作り上げられたことも事実」と言及している。
 
 文化遺産として見るだけでなく、日本人のその経験と知恵を複雑な現代社会によく生かさなければならない。