「迷い箸のやうに蜻蛉の止まりたる」栗林浩。…


 「迷い箸のやうに蜻蛉の止まりたる」栗林浩。枝先にトンボが止まろうとして近づくが、ためらって遠ざかり、また近づいてくる。あたかも、かすかな風に思考も揺らいでいるかのようだ。

 このかすかな風のことを生態学で微気象と呼ぶ。微環境という言葉もある。生態学者・伊勢武史さんの『生態学者の目のツケドコロ』(ベレ出版)によると、一本の樹木の北側と南側では日当たりが異なるように、ミクロな環境の違いも研究対象だ。

 微気象を主題に絵画を制作してきた画家がいる。抽象画の加藤芳信さんだ。画面の下から吹く微風と上から吹く微風が、中央でハレーションを起こしている。直線と曲線、点だけで表現した爽やかな作品(『加藤芳信作品集』求龍堂)。

 弓道になると、風によって矢の弾道が揺れるため、的を射るのが難しくなる。NHKドキュメンタリー「偉人にチャレンジ」で、那須与一が海上の扇の的を射たという伝説を検証すべく、弓道家の徳山陽介さんが再現するのを観(み)た。

 的は77㍍先で揺れ、鏑矢(かぶらや)は風に左右される。しかし挑戦を重ね、みごと射た。畑で練習をし、その後に伝説と同じ設定で挑戦。船端に当たったり、手前に落ちたり。一度で命中させた与一の凄(すご)さを実感させた。

 五輪種目でも屋外競技の場合、気温や風、陽光などの影響を強く受けるので、何が起きるかは未知。マラソンのように長時間にわたる種目であれば、アクシデントもあり得る。