「さみだれや大河を前に家二軒」(蕪村)…


 「さみだれや大河を前に家二軒」(蕪村)。さみだれは漢字で「五月雨」と書く。陰暦の5月に降る雨なのでそう名付けられ、ちょうど今頃の梅雨の雨である。イメージとしては力強い印象を持たれる面があるが、実は梅雨にしとしとと降る長雨のことである。

 この句で表現された絵画のような風景は、画家でもあった蕪村の空間把握の能力や的確な描写力を感じさせる。五月雨で有名な句は、芭蕉の「五月雨をあつめて早し最上川」。気流子は学校の教科書で読んで、五月雨が豪雨だと長い間思い込んでいた。

 この句は最初「早し」ではなく「涼し」だったことはよく知られている。芭蕉は長雨の中、煙るような最上川を眺めて詠んだ。遠景としては涼しい気分を醸し出しているところから「涼し」としたのである。

 その後、最上川の川下りを経験してその気分が変わってしまった。最上川は日本有数の急流で、涼しいなどと悠長に言っていられないほどの激流である。その実感によって「涼し」から「早し」に変えたのだろうと言われている。

 実体験から出た句と外から観察するような句では全然印象が変わってくる。写生を推奨した正岡子規の句も、健康だった時期と結核で寝込んだ時では、その写生のトーンや描写が微妙に違う。

 自然は季節ごとに変化する。梅雨の時期に咲くアジサイも、七変化と呼ばれるほど色が変化して一定しない。自然が生きていることを改めて実感する。