目に青葉山ほととぎす初鰹――。初夏の味覚…
目に青葉山ほととぎす初鰹――。初夏の味覚「初ガツオ」が今年はだいぶお手頃だ。近所のスーパーで1さく400円ほどだったので何度か買って食べた。小紙1日付によると、勝浦港や銚子港のある千葉県の5月の水揚げ量は去年の4倍以上に上る。
今年の初ガツオは結構脂が乗っていて、秋に獲(と)れる「戻りガツオ」のような味わいがある。餌となるコイワシなども近海で豊漁のためだ。
初物好きの江戸っ子は、争って初ガツオを買い求めた。歌舞伎の「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」、通称「髪結新三(かみゆいしんざ)」の2幕目で、新三が子分の勝奴と初ガツオを肴に一杯やる場面がある。先代の尾上松緑が当たり役としていた新三を今の松緑さんが演じた公演では、尾上菊五郎さん演じる魚売りが、本物ではないがいかにも生きが良さそうに見える初ガツオを包丁でさばいてみせた。
菊五郎さんの魚屋が醸し出す江戸っ子の気風と、その美味(おい)しそうなカツオで、舞台上に江戸の初夏が再現されたようだった。芝居の本筋ではないが、楽しい場面だった。
芝居ではこの初ガツオ1匹に新三が、数両の大枚をはたいていた。そんなごちそうを、手ごろな値段で食べられる現代人は幸せだ。
嬉(うれ)しいことに今年の初ガツオは鮮度もいいという。黒潮が例年より沿岸寄りに流れて漁場が近いためらしい。新型コロナウイルスとの戦いが続く梅雨、健康成分のDHA(ドコサヘキサエン酸)なども豊富な、この食品を食べぬ手はない。