気象庁が、東京の桜が満開になったと発表して…


 気象庁が、東京の桜が満開になったと発表して以来、少し落ち着かない気持ちで過ごした。その後、千代田区の千鳥ケ淵公園へ足を運んだところ、まだ8分咲きくらいだった。

 東京の満開情報は靖国神社の標本木を基準にしている。千鳥ケ淵は靖国神社のすぐ近くだが、場所や樹によって微妙に違うのだろう。満開の時間差があった方が長く桜を楽しめる。

 千鳥ケ淵は都内有数の桜の名所だから、「密」な感じはないものの人出はそれなりに多かった。皇居のお堀の脇の桜のトンネルを歩きながら、桜の国に生まれた喜びをしみじみと噛(か)みしめた。

 それから代官町通りを通り、北の丸公園から日本武道館、田安門へと出て九段坂公園に行くと、都内有数の桜の撮影スポットとあって沢山(たくさん)のカメラが三脚の上に並んでいた。お堀の両側の桜が水面近くにまで枝を垂らしている。遠景には近代的ビル群、さらにその向こうの中心に東京タワーが立っている。

 東京にしかない桜の風景であり、写真家にとっては魅力的な場所だ。懸崖菊のように桜の花が水面すれすれになだれ落ちる優美な景色を見ていると、一瞬夢の中にいるような錯覚すら覚える。

 花見客には外国人の姿もちらほら見える。新型コロナウイルス禍さえなければ、もっと多くの訪日客がこの日本ならではの景色を見ただろう。残念な口惜しい気もするが、コロナ禍もいつまでも続くわけではない。収束の日が早く来ることを期そう。