人は噂(うわさ)話が好きだ。パワハラや…


 人は噂(うわさ)話が好きだ。パワハラやイジメにつながるのは御免だが、噂話を全くしない人は少ない。それが当たり前だと『スマホ脳』(新潮新書)の著者アンデシュ・ハンセン氏(スウェーデンの精神科医)は言う。

 人類は長らく150人(ダンバー数という)程度の集団で暮らしてきた。集団には、当然親しい人もそうでない人もいる。集団のメンバーに関する情報は不可欠だ。噂話は情報収集の極めて重要な手段だった。

 発掘された頭蓋骨には、左側に損傷のあることが多い。これは右利きの人間に殺害されたことを物語る。昔から右利きが多かったからだ。利き手の問題はともかくとして、大昔は殺人による死亡率が現代よりも際立って高かったようだ。

 人間は特に悪い噂を好む。悪い情報が必要だったからだと著者は指摘する。自身やその家族が生存していくためには、楽しい情報よりは悪い情報の方がより重要だった。

 こうした人類史の積み重ねがあるから「社交的な人の方が長命、孤独な人物は短命」という傾向が生まれた。それも自然な話だ。だから、実際に他人と会う人ほど幸福感が増す。通信だけで人と接触することは、リアルな人間関係の代わりにはなりにくいようだ。

 著者の見解は、21世紀のわれわれが普通に実践していることとも符合している。むしろ常識に属するようなものだ。それでも、人類史の流れの果てに今のわれわれの生存があることの不思議さがそこから伝わってくる。