元東大学長で文部相や科学技術庁長官を…


 元東大学長で文部相や科学技術庁長官を務めた物理学者の有馬朗人さんが亡くなった。原子核物理学の研究で優れた業績を挙げ、日本学士院賞を受賞。俳誌「天為」を主宰する俳人でもあった。

 国際俳句交流協会会長として、俳句をユネスコの無形文化遺産にするための活動を展開。今年1月の俳人協会新年会のあいさつでは、活動を支えてくれている俳人たちにお礼の言葉を述べた。

 報告もあった。中国の重慶に招待され、宇宙に関する物理学の話をした。その講演の場で唐の詩人、李白が重慶で作ったという詩を朗読すると、聴いていた1000人の若者が立ち上がって合唱したという。

 「早発白帝城」だが、この話をした理由は、日本の高校教育で古典文学を軽視している文部科学省への進言のため。有馬さんは「日本の古典と中国の古典をしっかり教えておくべきです」と強調した。

 物理学については海外での研究、教育活動が長く、場所も米国、イタリア、ギリシャ、イスラエルと世界各地に及んだ。その体験から俳句と国際性の関係を考えるようになり、国際俳句交流協会の活動へと進んだ。

 最初の海外生活は1959年、29歳の時で、米国シカゴ。「落葉掃く黒人肌を輝かし」と黒人を詠み、さらに興味を持って黒人街に移住。「裏街の福音耳まで凍てゝ聞く」と詠んだ。物理学と自然、俳句と自然。そこには深い違いがあるが共通性もあるという。心を清くしないと見えないことだ。