小社の部屋の窓から外を眺めると、隣の公園…
小社の部屋の窓から外を眺めると、隣の公園との境に赤い花が散らばるように咲いている。椿(つばき)に見えるが、山茶花(さざんか)にも似ている。果たしてどちらなのだろうか、と同僚と議論になった。
椿と山茶花は近縁種なので、なかなか見分けがつかない。インターネットで調べてみると、落花する時に椿は花ごと落ちるが、山茶花は花びら一枚ずつという違いがある。と言っても栽培品種が多数あり、この区別も絶対的ではないようだ。
そのほか、椿は雄しべが筒状になっているのに対し、山茶花はやや開いている。いずれにしても、これほど知られている花なのに区別するのは簡単ではない。躑躅(つつじ)と皐月(さつき)も同様だ。
椿と山茶花にちなむ歌謡ですぐに思い浮かぶのは、都はるみさんの「アンコ椿は恋の花」と大川栄策さんの「さざんかの宿」である。どちらもミリオンセラーとなった名曲。
だが、この二つの歌は受ける印象が対照的だ。「アンコ椿は恋の花」は南国の風を感じさせる力強い元気の出る歌だが、「さざんかの宿」は北国の冬の寂しいイメージがある。実際の花と違って、歌では明暗がはっきりしている。
花の小さな違いに着目して名前を付けるのは、日本人の花に対する関心、自然への興味がそれだけ深かったのだろう。現代の日本では、こうした違いに気付くほどの繊細な感性は失われつつある。ただ、花を愛する心だけはいつまでも忘れたくない。