免疫抗体の構造研究で名高い医学者の石坂公成…


 免疫抗体の構造研究で名高い医学者の石坂公成を取り上げた岸本忠三他著『現代免疫物語』(日本経済新聞社刊)に「科学者が光り輝く時期は人それぞれだ」とある。

 「己が狙いを定めた標的と向かい合い、研究が佳境にさしかかった時には、土日を忘れ、寝食を惜しんで研究に没頭する」とも。よく知られた医学者の野口英世の場合、没頭の時期はアフリカ・ガーナに渡り黄熱病研究を続けた時だろう。

 安倍晋三首相は先日の施政方針演説の最後に野口のことを取り上げた。今月、アフリカ3カ国を訪問し「力強く成長するアフリカは、日本外交の新たなフロンティアです」と力説した話のくだりである。

 「ふるさと・福島から世界に羽ばたき、黄熱病研究のため周囲の反対を押し切ってガーナに渡り、そしてその地で黄熱病により殉職。人生の最期の瞬間まで、医学に対する熱い初心を貫きました」と野口の生きざまを紹介し「われわれが国会議員となったのも、『志を得る』ため」と自他を鼓舞したのである。

 安倍首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する戦略的外交」を標榜(ひょうぼう)し、今年に入って既にアフリカのほか、スイスやインドなどを訪問。国内では安定した政権基盤を築いており、まさに今が「光り輝く時期」であることを示す演説内容でもあった。

 しかし、光が強いほど影も暗くなる。杞憂(きゆう)にすぎないことを願うが、自信満々だからこそ「好事魔多し」が気になる。