何年か前のこの時期、公演後の演歌歌手…


 何年か前のこの時期、公演後の演歌歌手・走裕介さんを居酒屋「庄や」で慰労した内山斉氏(現・読売新聞顧問)夫妻の席に同席した。走さんは網走出身で、夫妻も共に北海道が故郷。同郷のよしみで走さんを後援している。

 まず出てきた焼いた干しシシャモを頬張りながら「タマゴ持ちでいい味ですね」と走さん。肯(うなず)きつつも内山氏は「これはシシャモには違いないけど、本シシャモじゃないんだよね」とつぶやく。

 漁師経験のある走さんは「カラフトシシャモですね。おいしいけれど皮が黒くて少しカタい。北海道のは身が大きくて皮の色が少し薄く柔らかいですからね」と。うれしそうにお国自慢が出ると、夫妻も相槌(あいづち)を打つ。後でものの本を調べてみると、道産ものは「魚市場では、カラフトシシャモと区別して、本ししゃもと呼ぶことも」とあった。

 北海道むかわ町ではシシャモ漁が終わった。特産のすだれ干し最盛期の、ヨシの茎に刺したシシャモがおいしそうに並ぶ写真が1面を飾ったのは、昨年10月30日付の読売夕刊。

 写真を見て、シシャモが目刺しに取って変わるが、あの一句が浮かんでくる。<木がらしや目刺しにのこる海のいろ> 芥川龍之介。

 立冬を過ぎると、北海道など北の各地から初雪の便りが次々と届く。大根が太く重くなる霜月は、おでんや鍋ものの恋しい季節でもある。シシャモに限らず脂の乗った海の幸に、舌鼓を打つ楽しみな季節がやって来る。