秋の一日、東京郊外を走るJR青梅線の列車…


 秋の一日、東京郊外を走るJR青梅線の列車は登山をする人たちでにぎわっていた。駅で降りていく人たちを見ると、高水山か御岳山に登るのだろうかと想像された。

 鳩ノ巣渓谷のマス釣り場には、釣りをする家族連れがいた。眺めていると、かつて釣りの豊富な体験を披露してくれた名人、千葉春雄さんのことが思い出された。1980年代から約20年間、小紙のフィッシング・コーナーを担当してくれたライターだ。

 多摩川での釣りの体験談となると、終戦直後のアユ釣りで終わってしまい、以後は空白となった。60年代に人口の増加とともに水質が悪化し、魚類が激減したためだ。改善されるのは今世紀に入ってから。

 きれいになった多摩川を知らないまま千葉さんは亡くなったが、今回は白丸ダムで面白いものを見た。魚がダムの上に遡れるように造った階段式魚道だ。ここは東京湾から79㌔上流。ダムの下、左手の岸辺を上っていく階段がある。

 水が流れていて、魚が遡れるのである。休憩所があって、スイッチバックし、魚道はトンネルに入る。長さ331㍍、幅2㍍、高さ27㍍で日本最大級のもの。2002年の竣工で、水質が改善されていく時期とほぼ同じだ。

 ダムの方は1963年の竣工と古い。対象魚はヤマメ、サクラマス、アユだが、川には100種類近くの魚がいるという。下流の堰(せき)にもすべて魚道が造られている。今の多摩川を千葉さんに見せてあげたい思いだった。