特別警報級の非常に強い勢力の台風10号が…


 特別警報級の非常に強い勢力の台風10号が、沖縄・奄美や九州に襲来する。日本では、台風のことをかつて「野分(のわき)」と呼んでいた。

 野分というと、生い茂った草木を分けるように吹く風景が思い浮かぶ。風情がある表現だが、現代の感覚からすれば、やはり台風のすごさを表現するには力不足の感がある。

 気流子が野分という表現に初めて触れたのは、学校の古典の教科書だった。江戸時代の芭蕉の句「野分して盥(たらひ)に雨を聞く夜(よ)かな」が思い出される。どこか牧歌的なイメージがあるのは、当時の人々の自然観からくるのだろうか。

 野分は平安時代の清少納言の『枕草子』にも出てくる。「野分(のわき)のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。立蔀(たてじとみ)、透垣(すいがい)などの乱れたるに、前栽(せんざい)ども、いと心苦しげなり」(石田穣二訳注『新版枕草子』一九一段。角川文庫)。野分の翌日の風景だが、続く文には大きな木々も倒れて惨状を呈していたとある。

 『枕草子』は学校で習ったものの「春は、曙(あけぼの)」という冒頭の文から授業が始まるので、当時はどこが面白いか分からなかった。親しみやすい表現だが、『枕草子』の真骨頂は平安時代の貴族の生活を活写しているところである。

 清少納言は、野分の翌朝、庭が乱れている風景を描くと同時に、きれいな人が寝坊をして髪が風に乱れている様子を「めでたし」(すばらしい)と記している。やはり、牧歌的な時代だったのだろう。台風の被害が少ないことを祈りたい。