「志半ばで職を辞するのは断腸の思い」――…


 「志半ばで職を辞するのは断腸の思い」――。安倍晋三首相が持病の潰瘍性大腸炎の再発で、約1年の任期を残し辞任を表明した。病院での検診後、引き続き職務を果たしていくと語った後だけに、やはり驚きを禁じ得ない。

 会見を見る限り、まだまだやれるとの印象も受けたが、体のことは本人にしか分からない。治療を続けながら職務を全うしていくことも考えたが、「体力が万全でない中、大切な政治判断を誤り結果を出せないことがあってはならない」との結論を下した。

 それでも、安倍首相が権力保持を第一に考えるのであれば、在任期間が歴代最長となったとはいえ、ぎりぎりまで首相の座にとどまったのではないか。

 任期を全うし有終の美を飾れば歴史的な評価も違ってくることは、誰よりも首相本人が分かっているはずだ。しかし幸か不幸か、安倍氏はそういうタイプの政治家ではなかった。

 志半ばに終わったのは、拉致問題解決、憲法改正、ロシアとの平和条約締結だけではないだろう。外交面では、トランプ米大統領と各国指導者中、最も良好な関係を構築した。トランプ氏と他のG7首脳との関係がぎくしゃくする中、その仲介役としても存在感を示した。米中対立で自由陣営の結束が求められ、トランプ氏の期待も大きかったはずだ。

 安倍氏が真に志の政治家であれば、首相の座を降りても果たすべきことは多い。健康を回復し、志の実現のため活躍を続けてもらいたい。