特攻隊で戦死した大尉の法事の日。僧侶の…


 特攻隊で戦死した大尉の法事の日。僧侶の読経中にメジロが飛来して、ガラス戸に当たって死んだ。僧侶は改めて、死んだメジロのために経を読んだ。

 大仏次郎『敗戦日記』(昭和19年10月29日)に記述されている。大仏の実体験ではなく、鎌倉の友人が目撃したものだが、大仏(47歳)は「小説の如き話なり」と記している。不思議な話ではあるが、メジロの死は偶然とも考えられる。

 似た話が森鴎外「阿部一族」にも書かれている。初代熊本藩主細川忠利が亡くなり、葬儀の最中、忠利が愛していた鷹2羽が、井戸に飛び込んで死んだ。

 「それではお鷹も殉死したのか」と人々の間でささやく声が聞こえたと書かれている。すでに殉死する者が多く、家中、殉死のことを思わぬ者はいないといった状況下のエピソードだ。

 鷹の殉死などということがあるのかどうか、そもそも2羽の鷹が井戸に飛び込んで死んだという事実があったのかどうかは分からない。「阿部一族」が史実を踏まえた作品であるのは確かだが、あくまでも創作が盛り込まれた小説である以上、事実関係は不明だ。

 それにしても、法事であれ葬儀であれ、その最中に鳥が飛来して死ぬというのは不思議な話だ。大仏のケースはほぼ事実と思われるだけに余計印象に残る。小説家が「小説みたい」というほどには奇妙な話に違いない。となれば「阿部一族」のエピソードも「ありえない話ではない」とも思えてくる。