公開中のフランス映画「グレース・オブ…


 公開中のフランス映画「グレース・オブ・ゴッド」は、本国ではヒューマンドラマとして絶賛され、91万人を動員する大ヒット作となった。ベルリン国際映画祭では銀熊賞(審査員グランプリ)に輝いた。

 フランソワ・オゾン監督のこの作品は、ヨーロッパを震撼(しんかん)させてきたプレナ神父による児童への性的虐待事件の真相に迫ったもの。1人の告発によって2016年1月に捜査が開始されると、80人もの証言が集まった。

 監督の立場にあるバルバラン枢機卿の隠蔽(いんぺい)によって、神父は教区を変えながら1971年から91年にかけて少年に性暴力を働いてきた。裁判が始まったのは2019年1月で、映画公開は翌月の20日。

 プレナ神父が上映延期を求めて裁判を起こしたが、公開2日前、メディアが注目する中で、神父の訴えは却下された。映画がよりどころとしたのは既知の素材で、裁判に影響を与えるとは認められなかった。

 映画はフィクションとして作られ、とりわけ被害者らの虐待によるトラウマと葛藤、周囲との軋轢(あつれき)、告発による希望を描いていく。沈黙を破るのは、教会を否定するためではなく、よくするためという事件の複雑性が提示される。

 神父らの未成年者への性犯罪は数万件に上るという。昨年2月、その対策のためバチカンで「世界司教者会議議長会議」が開かれたが、具体策なく閉幕した。プレナ神父事件の裁判は映画と並走していて、映画は被害者らを勇気づけている。