映画「プラド美術館 驚異のコレクション」…


 映画「プラド美術館 驚異のコレクション」(小紙4月4日付掲載)は10日の公開予定だったが、新型コロナウイルス対策のために映画館が休館となり、ロードショーはまだ始まっていない。

 これはスペイン・マドリードにあるプラド美術館とそのコレクションを紹介した作品で、名作の一つとしてヒエロニムス・ボスの「地上の愉楽の園」が登場する。美術史上に類例を見ない祭壇画だ。

 おびただしい数の裸の男女が登場し、奇怪な動物や魚たちから果物まで豊富に描かれて、幻想的で悪魔的、エロチックでグロテスクだ。画家ボスについては近年、日本でも取り上げられる機会が多い。

 2016年が没後500年で、17年12月には映画「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」が公開され、同年夏、上野の東京都美術館で開かれた「ブリューゲル『バベルの塔』」展でも、油彩2点が初来日。

 ボスは16世紀のネーデルラントで大旋風を巻き起こしたと言われるが、21世紀の現代でも注目を浴び続けている。解釈は定まらず千差万別だ。が、「極めて現代的」という点で共通している。

 15~16世紀のボスの時代の特徴を、哲学者ホセ・オルテガは「人間が自分自身を見失い、信念の体系から根扱ぎにされていた時代」と形容した(『ガリレオをめぐって』)。他の体系にも移行できず、身を支える地盤もなく、常軌から外れた時代。この形容がそのまま現代に当てはまると考える人は、オルテガだけではない。