ボストン美術館の東洋部顧問だった岡倉天心が…
ボストン美術館の東洋部顧問だった岡倉天心が『茶の本』をニューヨークで出版したのは1906年。その背景には、米国市場で、日本の緑茶とインド・セイロン紅茶との競争が激化していたという事情があった。
紅茶は飛躍的に増加し、07年から12年にかけて2・5倍になり、12年には紅茶が緑茶の輸入量を上回った。天心の説いた“茶の精神”は、優れた生産技術と販売政策による“紅茶文化”に敗れたのだった。
「今日、産業主義は世界中いずこにあっても真の風雅をますます困難となしつつある」とは天心の弁だ。ところが今、日本の緑茶の輸出額は増加傾向にあり、2012年は50・5億円で5年前の1・5倍。その約半分を米国が占めている。
農林水産省は「世界的な健康志向の高まりから、各国における緑茶の需要が増加してきており、他国産に比べてブランド力がある日本茶が進出しやすい状況」と分析。緑茶が世界のトレンドになりつつある。
米国へ日本の老舗店が進出し、伊藤園も事業を拡大しつつある。コーヒーチェーン大手のスターバックスは茶の専門店を買収し、昨年10月、ニューヨークで茶を提供する新事業の1号店を出した。
健康志向には心の健康も入る。産業主義と風雅とは必ずしも相反する概念ではない、という新たな時代に来ているのだろう。米国で茶の需要が増えるにつれ、茶器にも人々の関心が集まるに違いない。