生涯に一度だけ、世界保健機関(WHO)…


 生涯に一度だけ、世界保健機関(WHO)と接点を持ったことがある。「WHO事務局長夫人(夫妻とも日本人)が資金援助してくれる」という情報があって、仲間3人で面接に出向いた。

 場所は東京・高輪あたりの高級マンション。事務局長夫人は上品なお婆(ばあ)さんの印象だった。面接と言っても、20組くらいが集まってきたので、個別面談する余裕はなく、各グループの代表1人がプレゼンテーションすることとなった。

 仲間の代表格が発表を行ったが、「文芸同人誌を出すための資金」がわれわれの目的だったためか、高い評価は得られなかった。30年以上前の昔でも「同人誌なぞ古くさいもの」とのイメージが強かっただろうことは否めない。無論、われわれのグループに合格の連絡はなく、どのグループが合格したのかも不明だった。

 その後聞いた話だと、資金援助名目で相手に詳細な計画書を提出させた上で、資金援助なぞ行わず(「該当者なし」にしてしまえば援助する必要はない)、アイデアだけを盗用するといった手合いもいるらしい。悪徳業者は丸儲(もう)け、応募者だけが損をする。

 事務局長夫人の一件は、そうした不透明なケースとは全く無関係だが、徒労に終わったとは言え、面白い体験だった。

 今回の新型コロナウイルス騒動で改めて注目された事務局長は、WHOのトップの立場。通常事務局長と言えば、会長だの理事長だのの下にいる存在だが、WHOはそうではないようだ。