演歌歌手の鏡五郎さんが歌う『戸田の渡し』…


 演歌歌手の鏡五郎さんが歌う『戸田の渡し』(キングレコード)がCD5万枚を売り上げ気を吐いている。作詞・作曲は埼玉県戸田市在住の作曲家・今澤雅一さん。

 江戸から中山道に出る時、荒川で板橋と戸田を結んだのが戸田の渡し。幕末の蘭学者、高野長英も江戸逃亡時に渡ったと言われ、「江戸の未練を川面にすてて、蕨宿から木曽街道へ……江戸が恋しや、渡しの舟が」と長英の悲哀を歌詞に織り込んだ。「戸田のまちおこしを展開する中で、『戸田の渡し』ブームに火が付いた」と今澤さん。

 荒川は当時、重要な輸送・交通路で、人々の生活用水を賄い、江戸の「水文化」を担った。しかし明治になって、次々と鉄道輸送が生まれ、荒川は単に水を流す通路になった感がある。

 ところが今日、皮肉にも、地球温暖化と密集市街地の形成によって、荒川は再び人々の生活に重大な影響を与えている。中央公論3月号「荒川氾濫で水没する東京」で、筆者の河田恵昭・京大名誉教授が強調する。

 河田氏は土木学会の報告を元に、荒川右岸低地氾濫による浸水被害について「犠牲者数は六〇〇〇人を超え、資産・経済被害の総合計は一五〇兆円」と試算した。

 氾濫への対策については「浸水危険地域では、各家庭、商店、企業、病院・福祉施設などで、自助努力を先行して対策を進めるしかない」「各家庭で、水害発生時の防災行動計画を作成しておきたい」と。新たな水文化の構築が必要と言えよう。