森鴎外は果物を煮て食べたという。味覚の…
森鴎外は果物を煮て食べたという。味覚の問題ではなく、衛生上の観点からだった。医師(軍医)で細菌学の知識を持つ鴎外は、生ものに対して極度の警戒心を持っていたようだ。嵐山光三郎著『文人悪食』(1997年)に出てくる話だ。
その情報源は鴎外の娘森茉莉(87年没)。父はアンズであれ桃であれ、煮て食べたと娘は証言する。生ものが苦手ならば、鴎外は刺し身なんかも食べなかったのだろうか?
確かに果物であれ刺し身であれ、煮てしまえば衛生上は安心だ。焼きリンゴがあるぐらいだから、果物に熱を通せばまずくなるとは限らない。「うまいまずい」よりは安全かどうかを、処世も含めて万事用心深かった鴎外は重視したのだろう。
新型肺炎は新たに見つかった病気だけに、決定的な治療法は今のところない。果物を煮て食べれば、その部分での安全面は取りあえず保証されるだろうが、日常生活は幅広い。煮て食べたからといって、新型肺炎を回避できるわけではない。
茉莉の証言内容は100年以上も前のものだが、医学は鴎外の昔からは明確に発展したのだから、新型肺炎への対処法も近々開発されるだろう。それでも、細菌やウイルスは目に見えないものだけに、昔も今も未知の細菌やウイルスの怖さは変わらない。
妙な風評被害は避けたいが、今年夏の流しそうめんなどはどんな具合になるのだろうか? そのころまでに病気が収束していることを祈るばかりだ。