東京・国立劇場の文楽公演の第2部「新版…


 東京・国立劇場の文楽公演の第2部「新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)」と「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」を見た。「反魂香」の方は、竹本津駒太夫改め六代目竹本錣太夫(しころだゆう)襲名披露狂言として演じられた。錣太夫の名跡は80年ぶりの復活という。

 六代目錣太夫さんは入門して昨年で50年の70歳。公演プログラム掲載のインタビューによると、先輩の豊竹咲太夫さんから「文楽には大きな名前がたくさん眠っているんだから、それを掘り起こして世の中に出すことも、文楽の世界にいる者の務めでは」と襲名を勧められたという。

 先代の五代目錣太夫は、昭和初期の名人とうたわれた太夫。亡くなる時、三味線の六代目鶴沢寛治にいつか錣太夫の名跡を復活してほしいとその名跡を預けた。鶴沢家の同意、師匠や先輩たちの賛同、文楽協会などの了解を得て目出度く襲名となった。

 名跡の襲名は、歌舞伎や落語の世界でも行われる。今年5月には、歌舞伎の大名跡、市川團十郎を市川海老蔵が襲名する。十三代目團十郎の襲名は、日本の文化芸能界の一大イベントである。

 名跡というのは、日本の芸道に特有のしきたりだ。芸の秘伝はかつて一子相伝であったことなどが背景にあるのだろうか。個人の存在や個性が大きい西洋と違い、芸一つにしても、個人を超えた何者かの存在を大切にする日本文化の特徴がそこにあるように思われる。

 なぜそういうものが生まれ、どう機能しているかを考えることは、日本文化のユニークさの秘密を探ることになる。