「ロシア人は日本人が好きだ」


 前日、「日本人はやはりロシア人が嫌いだ」というタイトルのコラムを書いたが、送信後、「このタイトルはちょっと……」といった一種の消化不良のような気分になった。コラム読者の「大和さん」からコメントを頂き、それを読んで、当方がなぜ消化不良の気分になったか分かった。

 大和さんは、「日本人がロシア人を嫌いなのは、歴史的経緯からも当然と言えますが、意外にも、ロシア人には日本人を好きな人が多い。ロシア人は中国人を嫌いで日本人を好きです。理由を訊くと、『日本人は武士道精神のためルールを遵守し、マナーが良い。ロシアの文化も理解しようと努力してくれる。対して中国人は…』というわけです。政府間レベルではロシアと中国は今蜜月関係の如しですが、民間人の感情は随分違います」という。

 ピュー研究所の調査結果は、日本人がロシアとプーチン大統領に対して不信感が深いことを示しているが、それでもロシア人を愛する日本人も皆無ではないだろう。大和さんが書いていたように、政府レベルと民間人レベルでも好感度の感情は異なるケースがあるからだ。

 例えば、隣国・韓国との関係だ。“告口外交”を展開し、世界に日本と日本人の悪口をいいふらす朴現政権に対して、日本社会でも嫌韓傾向が高まっている。その一方、韓国人の友人や知人をもつ日本人からは、「政府は良くないが、自分が付き合っている韓国人はいい人が多い」という話を聞く。

 「日本人はやはりロシア人が嫌いだ」というコラムを書いた当方は、正直言って、ロシアとロシア人にはいい意味で強い関心がある一人だ。当方は冷戦時代、旧ソ連・東欧共産政権をフォローしてきた。民主化後もソ連の後継国ロシアに対して、その人権政策などを批判する記事を書いてきた。特に、ウクライナのクリミア併合以来、プーチン大統領に対しては失望してきた。その意味で、ピー研究所の調査結果は当然の結果と思う。

 しかし、それだけではないのだ。当方はロシア民族の宗教性、芸術性に心が惹かれているのだ。国連記者室でロシア人記者と欧州の政情などで話し合う機会があるが、彼らの観点は欧米記者と違ってとても新鮮で、非常に魅力的だ。

 「日本人はやはりロシア人が嫌いだ」というタイトルを付けてコラムを書いたが、当方のロシア観とは一致していない。だから、コラム送稿後も「あのタイトルはちょっと……」といった消化不良の気分を味わったわけだ。

 「国」に対する好感度は、直接は現政権とその政策に対してであり、長期的視点ではその国との歴史に関わってくる。一方、「国民」はその構成員だが、狭義的には、自身が交流するその国の友人、知人たちだ。「国の政策、政治家はいいが、その国民は……」といったケースより、「国の指導者やその政策は気に入らないが、自分が知っている国民はいい人が多い」といった状況が多いのではないか。

 大和さんは興味深いことを書いている。「そもそも一般のロシア人は、日本との間に領土問題がある事を知らない人が多いです。歴史教育でそんな事を教えていないので。(ロシアにしてみれば北方四島は当然ロシア領なので、領有権争いがあるなんて事を国民に知らしめる必要性は全くない)。そのせいで皮肉にも、ロシア人は日本人を好意的に感じてくれるわけです」という。

 韓国のように反日教育しないロシアでは日本人に対して過去の歴史に束縛されない。ロシア人は日本に対しフリーに考え、評価できるわけだ。その点、反日教育を国が主導する韓国では、反日国民が増えるのは当然の結果なわけだ。

 もちろん、国と国民を分けて考えることはできない。国の悪政に対し、その国民は責任を担う。国民の民度が低い場合、国もそれに合った程度の政府、国家しか待ち得ない。独裁政権は別として、民主選出された国の場合、その国と国民への評価が分かれることは本来、好ましくない。いずれにしても、ロシア人に対しても、「ロシア人が好きだから、ロシアも信頼できる」と考えることができる時代を早く迎えたいものだ。

(ウィーン在住)