歴史上の人物にはさまざまな謎がある。…


 歴史上の人物にはさまざまな謎がある。それを解こうと歴史家たちは資料の森に分け入る。しかしそれでも謎が残る。そのようなところで作家は想像力の羽を広げるのだ。

 「侘び茶」の完成者、千利休は秀吉から切腹を命じられて自刃したが、その理由も諸説あってはっきりしない。歴史小説『利休にたずねよ』で直木賞を受賞した山本兼一さんも利休の謎に挑んだひとり。

 山本さんが捉えた利休像は、権力には決して屈しないが、美の絶対的な価値を信じた人物。この原作を基に映画「利休にたずねよ」が製作され、12月7日公開される。主役の利休役は市川海老蔵さん。

 利休、宗易、与四郎と、世代の違う三つの利休像を演じ分けるのが大変難しかった、と海老蔵さんはいう。その妻、宗恩役は中谷美紀さん。準備でもっともこだわったのが、茶の稽古だったそうだ。

 実際に利休が使用した初代長治郎作の黒楽茶碗「万代屋黒」をはじめ、利休が活躍した当時の茶器の数々が使われ、撮影舞台も三井寺、南禅寺、大徳寺と伝統美への徹底的なこだわりよう。料理も書も本物に執着。

 描かれるのは、いかにして利休が美の信者になったか、という青春期の問題だ。山本さんは利休をパッションの人と捉え、日本に売り飛ばされた、李王家の血を引く「高麗の女」との恋にその原点がある、として描いた。二人の命極まる交流が見どころで、強い説得力がある。