朝日新聞と3人の「吉田」氏


 「天下の朝日」新聞が今、存続の危機に瀕している。正しい報道を至上課題に掲げてきた新聞社が意図的に事実を操作し、読者に間違った内容を報道してきたことがこのほど木村伊量・朝日新聞社長自らの謝罪会見で明らかになったからだ。

 同社の過去の意図的誤報に対して、社長自ら表明したように、第3機関による客観的な検証が不可欠だ。朝日新聞の場合、その誤報の影響は国内だけではなく、海外にも及ぶ。誤報手段を駆使して自国の政府を批判する一方、中国と韓国の反日運動の手先となってきたからだ。

 このコラムでは、朝日新聞社の崩壊の契機となった「慰安婦問題」報道と「福島第1原発事故」の2つの「吉田」調書(証言)について語るつもりはない。既に詳細に報告されているからだ。当方はここでは朝日新聞の危機を誘発した「吉田」という名前に焦点を合わせた。

  読者の皆さんは2人の「吉田」氏をご存じだろう。1人は昨年7月に亡くなった東電福島第一発電所所長の吉田昌郎氏だ。同氏が政府の事故調査・検証委員会の中で福島第一原発事故について証言した内容は「吉田調書」と呼ばれている。朝日新聞は今年5月20日付朝刊で「2011年3月15日朝、福島第1原発に働いていた東電社員らの9割にあたる、およそ650人が所長の待機命令に違反し、撤退した」と報じ、東電社員が吉田所長の命令に反して逃げたという印象を与えた。しかし、事実ではなかった。木村社長は「調書を読み解く過程で評価を誤った」と弁明している。

 もう一人の「吉田」氏は韓国済州島で慰安婦を強制連行したと証言した吉田清治氏(故人)だ。同氏は生前、その証言は偽りであったと自ら認めている。朝日新聞は今年8月5日付朝刊で、「同氏の証言は虚偽と判断した」として記事の削除を決定している。

 「慰安婦」問題と「福島第1原発事故」で大きな影響を与えた2人の名前は偶然、「吉田」だったが、朝日新聞が世界的スクープとしてこれまで誇示してきたチェルノブイリ原発事故報告書」(ロシア語)のスクープ報道は、ウォーターゲート事件報道のような地道な取材によるものではなく、国際原子力機関(IAEA)の広報部長のテーブルにあった報告書を盗んだ結果だったことが後日、当時のIAEA広報部長自身が認めているのだ。その広報部長とは、NHK国際局報道部次長から国連職員に転身した吉田康彦氏だった。

 世界の注目を集めていたロシア側からの報告書を国際記者会見で公表予定だった当時のハンス・ブリクス事務局長は朝日新聞の報道にカンカンとなり、朝日新聞記者に報告書を意図的に流した吉田部長を即解雇する考えだった。しかし、国連機関初の日本人広報部長ということで注目されていた吉田氏の解雇はまずいと判断した日本外務省の要請を受け、IAEA側は吉田氏を後日、ジュネーブの国際機関に人事している。「天下の朝日」の世界的スクープは公文書窃盗罪にあたる犯罪行為によって実現したのだ。ちなみに、同記事を書いた朝日新聞記者はチェルノブイリ原発事故報告書スクープで日本新聞協会賞を得ている。(「朝日のIAEA報告書“横流し”事件」2009年2月28日参考)。

 それにしても朝日新聞社は「吉田」という名前の人物と不思議と縁があるのだ。3人の「吉田」氏は本人の意向と関係なく、「天下の朝日」を崩壊へ導いているのだ。

(ウィーン在住)