白頭山が噴火すれば 日本含む周辺国に甚大な被害

共同調査・研究を阻む中国

 富士山噴火、南海トラフ地震、東京直下型地震…、地下のプレートが重なる上に位置する日本列島では地震や火山噴火など、自然災害がいつ起きてもおかしくない。お隣の韓国には地震はほとんどないものの、もし自然災害が発生すれば超弩級の被害を予想させる山がある。中朝国境にそびえる「朝鮮民族の聖地」白頭山(中国名・長白山、2744メートル)だ。

 東亜日報社が出す総合月刊誌新東亜(6月号)が「白頭山火山爆発シナリオ」の記事を載せた。白頭山の過去の大規模噴火を調べると、李朝時代を記録した史書「朝鮮王朝実録」によれば5回となっている。しかし東北大の谷口宏充名誉教授が日本、朝鮮、中国の文献を分析した結果は「6回」で、しかも「噴火はいずれも日本で大きな地震が起きた後、発生した」のだという。日本での大きな地震といえば、8年前の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)が想起される。韓国メディアがしきりに白頭山噴火を取り上げる理由である。

 ただ同誌はこの因果説には「追加検証が必要だ」と釘(くぎ)を刺す。白頭山に関しては十分な調査、研究、分析ができていないからだ。その理由は後述する。

 「追加検証」と言いながら、その直後に同誌は、韓国での白頭山研究の第一人者に挙げられる李ヨンス浦項工科大教授(元韓国地質資源研究院責任研究者)の説明を続けた。「時期の問題であって、噴火は規定事実だ。徹底した研究を通して、対応策を準備しなければならない」というのだ。もはや噴火を前提にして防災対策をしなければならない、という段階なのである。

 ここで「追加検証」などと何を悠長なことを言っているのかとの疑問が湧くが、同誌はその理由を東アジアの複雑な政治環境を挙げて説明した。白頭山は中国と北朝鮮の国境に位置する。同地域の調査、研究には中国、北朝鮮、韓国の共同作業が必要となるが、まず、中国が調査での立ち入りを許さないという。

 白頭山の頂上にはカルデラ湖の「天池」があり、その地下内部のマグマの状況を知ろうとすれば、超音波、衝撃波分析装置などを動員しなければならない。しかし、中国軍部が機材の持ち込みを許さないというのだ。中国の学者ですら調査装備を持ち歩くのに制約が海外編あるという。

 北朝鮮でもこの件では韓国や中国に共同研究を持ち掛けているが、李教授は「毎回失敗に終わった」として、調査研究が行われていない現実を伝えている。

 しかし、予測される被害は広範囲かつ甚大なものになる。尹成孝釜山大教授は国会に模擬実験結果を報告した。「北朝鮮の鴨緑江周辺と中国長白朝鮮族自治県一帯の道路・ダム・電気など基盤施設が麻痺(まひ)し、住民は呼吸疾患、飲料水汚染、冷害に苦しめられ、一帯が焦土化する」と甚大な被害を予想している。

 天池が噴火して二酸化炭素が噴出すれば、半径50キロにおびただしい人的生物的被害が生じるとも予測した。「噴火規模を5程度、すなわち946年大噴火の100分の1水準の威力と想定しても、破壊力は広島原爆の1600倍に相当する」(李教授)ほどなのだという。

 噴煙や火山灰が上空に上がり、偏西風に乗って東に流れる。すると南方に位置する韓国の被害は少なく、むしろ日本の東北地方以北に噴灰が降ることになる。946年噴火では「北海道と本州北部に5~10センチの厚さの堆積層を作り出した」との記録が残っている。

 「朝鮮民族の山」と言いながら、もし噴火すれば、日本の被害が大きいとは皮肉なものだ。ならば共同研究にはどこよりも地震や噴火に詳しい日本の学者を入れるのは当然と思われるが、これまで「韓国の研究陣は北朝鮮および中国研究陣と持続的に接触してきた」だけで、日本の研究者が加わったとは言っていないのが解せないところである。

 韓国の行政安全部は「実際に火山灰を避けなければならない状況は起きはしない」と楽観視している。しかしこの見方は甘い。火山灰が降らないというだけで、噴火の影響は噴灰の硫黄成分による各種電気施設の故障、電力ネットの崩壊を招くだけでなく、冷害、日照りをもたらす。

 これはもう中国と南北韓だけで対応を練るのではなく、日本を含め、場合によっては米露も入れて対応策を立てなければならない事態だが、その視点がないことが残念である。

 編集委員 岩崎 哲