「憲法9条改正」問題で安倍政権の真価を問うサンデー毎日の「時評」

◆就任後トーンダウン

 安倍晋三首相は、先の衆院選、首相就任前の演説で「自民党が政権公約において、憲法九条改正によって自衛隊を『国防軍』と位置付けるとしたのも、不毛な論争に決着をつけて、歴史の針を進めるために他なりません」と発言している。しかし、安倍政権になってから九条改正の推進力がトーンダウン、サンデー毎日の「岩見隆夫のサンデー時評」では、そのことについて「安倍さんの心境に変化があったかどうかは判然としないが(中略)首相とは一体、何をするためにあるのだろうか」と問い、むしろ首を傾げて、この間の安倍首相の変化をいぶかっている。

 時評では、くだんの安倍首相の演説を引き合いに出しているので、その後の同首相の言葉を続けると「自国の民を守るために戦わない国民のために、代わりに戦ってくれる国は世界中のどこにもありません。/日本が抱える課題を列挙してみると、拉致問題のみならず、領土問題、日米関係、あるいはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような経済問題でさえ、その根っこはひとつのように思えます。すなわち、日本国民の生命、財産および自らの手で守るという明確な意思のないまま、問題を先送りにし、経済的な豊かさを享受してきたツケではないでしょうか。(後略)」と勇ましい。

 その安倍首相の再登場で「世間や、自民党内では中曽根康弘元首相ら九条改憲派の期待が一気にふくらみ、それに向けた法案整備などの動きにも拍車がかかった」。

 ところが政権を取ってから、打ち上げられたのは憲法改正でなく経済政策の「アベノミクス」。これには「『政権の人気維持のために、一時的にアベノミクスに重点を移したのは仕方ない』/という見方が大勢だった。私もそれが間違っているというわけではない」と時評子。評論を「日本最大のテーマをとりあえず横において各論から始めるのが政治の本道か」というところに落ち着かせている。

◆議論から進まぬ改憲

 時評子が不審に思うのももっともである。思えば昨年5月17日付の米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」(電子版)に、その直前に行われた安倍首相へのインタビュー記事が掲載された。この中で首相は、憲法9条に関し「自衛隊を国防軍と規定すべきだ」と改めて述べ、改正の必要性を強調。首相は、有識者会議を設置して容認に向けた検討を進めている集団的自衛権の行使にも触れ、行使が可能となった場合でも「日本が世界の他の国と同じ立場になるだけだ」と世界に向かって力説した。大見えを切ったわけだ。

 ただし、その一方で「われわれはこの問題を慎重に提起しなければならない」とも指摘したが、実はそちらに本音があったのか、と疑いたくもなる。

 首相が改憲を急がない背景には「改憲論議はまだ熟していない」(首相周辺)との認識がある。自民党が改正草案に盛り込んでいる9条への「国防軍の保持」明記や、改憲発議要件を定めた96条の見直しなどには世論の抵抗が強いため、党幹部は「国民の誤解や不安の払拭を丁寧にやっていくことが大事」としている。

 しかし、自民党は1955年の結党以来、「現行憲法の自主的改正」を党是としている。立党50年の2005年には新憲法草案を策定。9条に関しては「戦力不保持」と「交戦権否認」を規定した第2項を削除し、「自衛軍の保持」を明記している。

 この間、党憲法審議会などで新憲法草案が議論され、集団的自衛権の行使容認を憲法で明確にすべきだとの意見や、前文に伝統的価値観を書き込むよう求める声も出たが、論議もそこまで。

◆国民世論との対話を

 時評子は「いま、国民の憲法意識は、九条改正確信派二割、改正阻止派二割、煮詰めて考えてこなかった派が六割と私は見ている。国民に『考えてもらう』のが先決だ。せめて『考えてもらう』比率を七割ぐらいまで広げないと話にならない」とにらみ「国民世論とのエネルギッシュな対話」の必要性を強調している。

 国民世論との対話も重要だ。またねじれ解消を踏まえ、改めて改憲勢力を結集し超党派で論議を深めていく時だ。安倍政権は憲法改正への環境づくりに毅然(きぜん)として取り組むべきだ。

(片上晴彦)