米中対立を「覇権争い」の本質から中国に構造改革の確約求めた産経

◆世界に悪影響が波及

 トランプ米政権が中国からの輸入品2000億㌦(約22兆円)相当に課している追加関税を10%から25%に引き上げた。これに対し、中国は6月1日に報復関税を実施すると発表すると、米国は中国からの輸入品全てに追加関税を課すと表明するなど、米中貿易戦争が激化の様相を呈している。

 各紙はこの米中という世界第1位と2位の経済大国同士の貿易摩擦問題を社説で取り上げ、日経は11日付と15日付で、読売が12日付と15日付で2回、他紙は東京が11日付、朝日、毎日、産経が12日付、本紙が13日付で論評を掲載した。

 米中貿易摩擦をかねて「覇権争い」の視点から捉え、今回の事態でも「米の対中制裁関税/揺るがず構造改革を迫れ」(見出し)と本質に迫ったのが産経である。

 中国の構造問題とは、自国企業に対する不当な補助金や海外の知的財産権の侵害、外国企業への技術移転の強要などである。これらは米国だけでなく、日本や欧州の企業も苦しめられてきた問題だが、産経は「国際社会の問題視を顧みず、中国が一向に改善しようとしないのは、これらが国家資本主義に基づく中国の強国路線を支える根幹であるからだ」と指摘する。

 報復の応酬で貿易が滞り、双方の景気を下押しすれば、悪影響は世界全体に波及しかねない。同紙は「これは憂慮すべき事態であり、今後は打開への動きも強まろう」とみるものの、「対話はもちろん重要である。だが、対中貿易赤字の解消といった目先の成果を焦るあまり、中国の構造問題に本格的に切り込めないようでは本末転倒である」として前述の見出しのように迫るのである。尤(もっと)もである。

 もちろん、同紙は「併せて認識しておくべきなのは米中対立が貿易にとどまらない覇権争いだということだ」として「真の解決には相当の時間を要しよう」とみるが、その通りであろう。

◆「5G」めぐる争いも

 世界第2の経済大国の視点から社説見出しで「中国は不公正な慣行改めよ」とした本紙も、米中貿易摩擦には国家情報網や軍事力などを大きく左右する次世代通信規格「5G」の開発をめぐる覇権争いも絡んでいると指摘。「急速に軍事力を拡大し、南シナ海の軍事拠点化などを進める中国が、ハイテク技術の分野で覇権を握れば、その脅威は格段に高まる」と強調し、米国は中国に構造改革を強く要求し続け、中国の覇権拡大を許さない姿勢を示す必要がある、とした。毎日も「単なる通商協議のレベルを超え、経済や安保で世界の覇権を争う深刻な事態となった」と捉える。

 産経や本紙ほど明確ではなく、「米中は貿易戦争の打開へ対話を続けよ」(社説見出し)とした11日付日経も、「貿易戦争の責任は米中双方にある。もとをただせば、米国に次ぐ経済大国になったにもかかわらず、相応の義務を果たそうとしない中国の問題が大きい」と指摘。12日付読売も、「海外市場で自由貿易の恩恵を一方的に享受するだけでなく、公平な競争環境を国内にも整え、市場を開放する責任を負う」として「補助金政策の是正などを、米国に確約することが不可欠である」とした。

◆先に米国批判の朝日

 日経、読売、毎日は「中国の行動を正すなら、日欧とも連携し、多国間の枠組みで圧力をかけるのが本来の筋だ」(12日付読売)などと米国の問題点も指摘したが、いずれも先に中国を問題視している。

 これに対し、米中両者に「打開へ粘り強く協議を」(見出し)と求めた朝日だけは、「米国は、一方的な制裁措置を慎むべきだ」と先に米国を問題視し、その後で「中国は、世界の理解を得られる解決策を、自ら打ち出すべきだ」とした。協議が今後も続けられる点では、先に中国を挙げ、米国を後にした。同様な内容の記述でも、社のスタンスの違いが出るものである。

(床井明男)