半月ほど前、食卓に出た鰹節(かつおぶし)…
半月ほど前、食卓に出た鰹節(かつおぶし)の佃煮(つくだに)のようなものを口にした。味噌(みそ)味だったので何なのか聞くと、蕗(ふき)の薹(とう)を刻んで合わせ味噌にしたという。言われてみて、わずかにほろ苦い味が分かるほどだった。
近くの公園の路傍で芽を出していたのを家人が摘んできたのだが、少し早かったようでまだ小さく少なかった。数日前、今度は近所の人から庭で芽を出したというのを頂いた。こちらは待ち遠しい春の旬の味覚をしっかり堪能できた。
<ほろ苦き恋の味なり蕗の薹>杉田久女。蕗はキク科の多年草で山菜の代表格だ。都会でも庭の草むらから採って味覚を楽しめる春を告げる使者。薄緑色の葉のコートに包まれて卵形の花芽を出す。
スーパーの惣菜コーナーでは蕗の薹、タラの芽の天ぷらや菜の花のごま和えなどが並び、食欲をそそる。今が旬の少し苦みがある葉っぱものは、その苦みが冬の間に溜(た)めた脂肪を溶かすから健康にいいと言われる。
ところで菜の花は、そういう種類の植物があるのではない。一般には「アブラナ(菜種ともいう)」の花を指し、最近は河原などでよく見掛けるカラシナの花をいうことも多い。辺り一面に広がる黄色い絨毯(じゅうたん)の光景が、ぽかぽか温かに心を和ませてくれる。
菜の花は司馬遼太郎が好んだことはよく知られているが、夏目漱石や志賀直哉らにも愛された。漱石は「春は眠くなる。(中略)ただ菜の花を遠く望んだときに目が醒(さ)める」(『草枕』)と書いている。