中国の軍拡黙認し日本の防衛力強化に反対する朝日社説は「必負」の勧め

◆中国側の主張と一致

 「敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」。中国春秋時代の軍事思想家、孫子の言である。「敵を知らずして己を知れば、一勝一負す。敵を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し」と続く。

 その意味は―、敵と味方の実情を熟知していれば、百回戦っても負けることはない。敵情を知らないで味方のことだけを知っているのでは、勝ったり負けたりして勝負がつかず、敵のことも味方のことも知らなければ必ず負ける(『故事ことわざ辞典』)。

 安倍政権は先週、新たな「防衛計画の大綱」とそれを具体化する中期防衛力整備計画(中期防)を閣議決定した。それで孫子の兵法を思い浮かべた。わが国を取り巻く軍事情勢(敵)が大きく変化してきたので、それに合わせて防衛力を増強(己)する。それが新大綱の趣旨だろう。

 ところが朝日の受け止め方は違っている。この1カ月間に3本の社説を掲げたが、「防衛大綱改定 『空母』導入には反対だ」(11月30日付)、「安保法後の防衛大綱 軍事への傾斜、一線越えた」(12月19日付)、「防衛費の拡大 米兵器購入の重いツケ」(23日付)と反対一辺倒だ。

 一線を越えたとは尋常の反対ぶりでない。中国が新大綱に「強烈な不満と反対」(外務省報道官)を表明したが、まるで引き写しだ。一線を越えたとは、「空母」導入のことで、専守防衛の原則からの逸脱と断ずる。「こうした防衛政策の転換をさらに推し進めれば、不毛な軍拡競争に道を開きかねない」(19日付)。

◆国民は「脅威」と認識

 そうだろうか。軍拡と言えば、多くの人は中国を想起するだろう。空母と言えば、中国は3隻目の空母を建造中だ。読売と米ギャラップ社の日米共同世論調査では、中国を軍事的脅威になると思う日本国民は75%に上り、昨年の67%から大幅に増えている(19日付)。

 これに対して朝日は「大綱の主眼は、北朝鮮ではない。軍拡を進める中国の脅威への対処にある」と一見、同調しつつ、結論では大綱と中期防が示すビジョンの全面否定だ。これでは中国の軍拡を不問に付したに等しい。

 脅威は「意図×能力」で判断される。他国を攻撃、侵略しようとする考えを持っていること、そしてそれを実行する能力を持っていること、この2点によって決まる。国民の多くは中国が日本を攻撃する意図も能力も持っている、だから脅威だと判断している。朝日がそう思わないなら、国民感覚とのズレは深刻だと言わざるを得ない。

 渡辺利夫・拓殖大学前総長は「中国は遅れてやってきた帝国主義国家」と言う。「弱者に『生存空間』はない、というのが帝国主義の構えであり、パワーポリティックスの時空を超えた真実である」(産経「正論」)。習近平主席が進める「一路一帯」はそれこそ帝国主義政策だと多くの識者が指摘している。こういう中国から身を守らなければ、弱者の「生存空間」がなくなる。だから大綱が示すような防衛策を採る。

◆朝日の迷信は「9条」

 ところが朝日は遅れてやってきた今日の帝国主義ではなく、過ぎ去った帝国主義(戦前日本)たたきに気を奪われている。それで現行憲法とりわけ9条体制と、その所産の「専守防衛」を金科玉条とする。中国の軍事は棚上げにし、日本の「軍事=悪」論。それが朝日の論調の基調を織り成す。

 朝日は言う、「軍事に過度に頼ることなく、外交努力を通じて緊張を緩和し、地域の安定を保つ――。いま必要なのは、総合的な安全保障戦略にほかならない」(19日付)

 きれい事だ。プロイセンの軍事戦略家クラウゼヴィッツは「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」と看破している(『戦争論』)。ましてや中国は「政権は銃口より生まれる」(毛沢東)という国柄で、人民解放軍は今なお国家の軍隊でなく「共産党の軍隊」だ。

 こんなことは朝日ともあろう知識人は百も承知していよう。それとも心底から知らないのだろうか。どちらにしても、敵のことも味方のことも知らなければ必ず負ける。朝日の論調は「必負」の勧めだ。

 孫子が兵法を著したのは当時、戦争の勝敗は「天運」によって決まるとの迷信があったからだ。朝日のそれは「9条」である。

(増 記代司)