米の対イラン経済制裁をめぐり効果を疑問視する米・イスラエル紙

◆「逆の結果」出る恐れ

 米国は5月にイラン核合意から離脱、それに伴い8月に経済制裁を再開し、11月4日には原油の完全禁輸などを実施する。制裁により、イランでは経済が悪化、国内でも反乱が起きるなど動揺しているが、イラン政府は核合意の維持を主張、合意に参画した英国、フランス、ロシア、中国、ドイツも依然、米国に合意の実施を求めるなど、足並みはそろっていない。

 米紙ニューヨーク・タイムズは12日、編集委員のコラム「別の方法による戦争」を掲載、「イランをめぐるトランプ大統領のギャンブルは来月、変曲点に達する」と新たな制裁によって、イラン情勢が大きく変化すると予測した。

 同紙は、合意離脱は「順守を貫く同盟国の英仏独との決別」とトランプ政権の一方的な離脱を批判、制裁の再開によってイランの核開発を放棄させ、シリア、イエメンなどへの介入をやめさせることは「非現実的」と制裁の効果には懐疑的だ。

 その上で「イランの強硬派を勢い付かせ、中東を不安定化させる」という米国が意図したこととは「逆の結果」が出るのではないかと懸念を表明した。

 中でも重要視しているのは、主要同盟国英仏独と中露の「協力を得ることに失敗した」ことだ。

 イランのザリフ外相は17日、ツイッターで、米国は「無法者国家」で「制裁中毒」と制裁を連発する米国を非難した。歳入の半分以上を原油販売に頼ってきたイランにとって、禁輸は致命的であり、制裁開始を前に米国を牽制(けんせい)する狙いがあるとみられるものの、逆に制裁による影響に強い懸念を抱いていることを露呈した。

 米国は、禁輸措置に従わない国、企業には経済制裁を科すとしており、既に裁きを恐れてイランからの撤退を決めた大手欧州企業もある。

 そのため、欧州各国とイランは制裁を迂回(うかい)し、イラン進出企業をつなぎ止めるために、ドル以外での決済方法を模索している。「現地通貨や物々交換」を検討中というが、実現できるかどうかは不明だ。

◆米国の孤立化を懸念

 ニューヨーク・タイムズは、この動きは米同盟国のトランプ政権への「怒りの深さ」を示すもので「成功するかどうかは別の話」と訴えるとともに、「最終的には米国の競合国を利するもので、長期的には米国にとって有害」というアナリストの指摘を伝えている。

 イラン核合意は、オバマ前政権時の2015年に米国を含む6カ国とイランとの間で交わされた。核開発を凍結するとともに、融和措置によってイランが態度を軟化させ、核・ミサイル開発、テロ支援でも譲歩が引き出せることに期待した。だが、実際にはそうはならなかった。核開発の凍結は順守されているが、ミサイル開発を進めており、合意以前に科されていた制裁の解除によって手に入れた資金は、国内経済の浮揚には使われず、シリア、イエメンに投入されたとみられている。

 同紙は「反乱や経済の悪化にもかかわらず、専門家らは、イランがすぐに崩壊することは考えていない」と指摘する一方で、「合意を継続していれば、トランプ政権は(イランをめぐる問題で)主導する立場に立っていたことだろう」と、合意離脱による米国の孤立化に懸念を表明した。

◆地域不安定化は必至

 一方、イランと敵対するイスラエルの右派系新聞エルサレム・ポストは、トランプ政権がこれまでの強硬姿勢を軟化させていると報じた。それによると、トランプ政権は、イラン原油の輸入を大幅に削減させた国に制裁の免除を検討している。イラン制裁で米国が譲歩姿勢を示したのは「初めて」のことだ。

 同紙は社説で、欧州各国、中露は外交による解決が可能と考えている一方で、米国はその可能性をわずかに残しているとした上で、「外交解決は恐らくない」と悲観的だ。

 トランプ政権は制裁による核・ミサイル開発の放棄、テロ支援停止などは可能と考えているが、「イスラエルでは依然として強く疑問視されている」と制裁の効果には懐疑的だ。

 最終的には、国内の動揺をあおり、政権を転覆させることが「最善の選択かもしれない」としているものの、いずれにしても欧米の分断の深化、地域の不安定化は避けられないというのが大方の見方だ。

(本田隆文)