彼氏チェンジと性病検査繰り返す女子高生に理解示す女医使うNHK

◆偏った思想刷り込む

 公共の財産である電波を使うテレビには「政治的な公平」が法律で義務付けられているから、意見の分かれるテーマは公平に扱う必要がある。しかし、ドキュメンタリー、教育、福祉など分野を問わず、偏った視点で作られた番組はめずらしくないのが実情。この欄でよく取り上げるNHKEテレの「ハートネットTV」はそのあしき代表例だ。

 同番組が「性」をテーマにすることが多いのは理由があるはずだ。日本人は性をテーマに議論することはほとんどないから、自分の考えを自覚的に持っている人は少ない。従って、性は、番組製作者が自分たちの思想を視聴者や若者に刷り込むための格好の材料になっているのではないか、と筆者は疑っている。

 テレビ番組がどれだけ偏向しているかをチェックするのは難しいことではない。番組に招かれるゲストの思想や交わされる会話の内容に注意を払っているとすぐ気が付く。

 9月17日放送の「ハートネットTV」のテーマは「もうひとつの“性”教育プロジェクトAction4」。性教育の教材とする動画を作ろうと、取材に歩く女子高生たちの姿を追ったのだが、そこに同行したのは文筆家でレズビアンの牧村朝子。もうこれだけでも製作者がこの企画をどこに誘導しようとしているのかが推察できる。そして、女子高生たちが取材した「思春期の性スペシャリスト」という産婦人科医(女性)の話が尋常ではなかった。

 スウェーデンでは、15歳になると、各市町村に「ユースクリニック」があることを教えられてそこで性教育を受ける。しかも、必要な時にはコンドームやピルが無料でもらえるのだとか。しかし、件の産婦人科医はピルの副作用については何も言及しなかった。

◆違った意見に触れず

 もっとすごいのは次の場面だった。「このクリニックでは、さばけた高校生が『彼氏変わったのでリセット検査を受けます』と言ってパートナーチェンジのタイミングで性病の検査を一通り受けます」と自分のクリニックをPRするのだが、この話に牧村は拍手を送っていた。

 そんな高校生がクリニックに来たことは事実なのだろうが、それを「さばけた高校生」などと理解のあるところを装うところに、この女医の性についての偏った考え方が表れている。「性行為を安易に考えてはダメ!」ときつく説教して帰す医者がいてもいいが、彼女はそうでなく“うちはさばけたクリニックです”とばかりに、テレビで吹聴するのだから、開いた口がふさがらない。

 しかも、女子高生たちは、「パートナーチェンジ」を繰り返すような高校生を問題視する識者に対する取材は試みていない。違った意見にも耳を傾けてこそ「公平」になるとアドバイスする大人は存在しなかったのだろうか。

 この後、女子高校生たちは「LGBT」(性的少数者)支援活動などを行っているNPO法人を訪ね、「生きにくいことはありますか」と、当事者にインタビューしたのだから、番組の狙いがどこにあるのかはもうお分かりだろう。

◆背景に性の解放思想

 倫理・道徳と切り離された性は、欲望に引きずられて放縦となり、社会の秩序は乱れる。ところが、性教育をテーマにした番組でありながら、性倫理や貞節、純潔という言葉がまったく出てこず、無責任な性行為を戒めるという観点は無視されていた。そんな番組作りの背景にあるのは、性における子供中心主義か自己決定論であり、性の解放思想であろう。

 取材の結果、出来上がったドラマ仕立ての動画は最後に「妊娠したかも・性感染症? 生徒とカラダで悩んだら」などという文言とともに相談のための電話番号を大写しにして終わっていた。これでは産婦人科クリニックがはやるわけで、まったくのマッチポンプである。

 この企画は「Action4」だから、これからまだ続くという。番組が偏向していないというなら、今後、LGBTをどうしても受け入れられないと悩む若者や、高校生に避妊を教えるより結婚まで貞節を守ることを教えてほしいと願う保護者の意見に真摯(しんし)に耳を傾ける企画を放送すべきである。(敬称略)

(森田清策)