若者に広がる「火病」
地球だより
テレビでドラマなどを見ていると、よく登場人物が自分の胸をたたいて激高したり泣き崩れる場面が出てくる。初めのうちは「なぜ胸をたたくのかな」と漠然と思っただけだったが、後にそれが実際にある韓国人特有の行動と分かった。何か恨めしいこと、悔しいこと、あるいはひどく悲しい出来事に遭遇し、火の塊のようなものが胸に込み上げてくる感覚に陥り、そうするのだという。いわゆる「火病」の症状の一つだ。
火病とは怒りの抑制を繰り返すことで生じる精神疾患。1980年代、米国で韓国系移民が症状を訴え、最初はナゾの病気として学界に報告された。火の塊が関係するためか東洋医学での診療・処方も盛んだ。その火病が近年流行(はや)っていて、最新の報告では10代、20代の患者がここ5年間で倍増したという。熾烈(しれつ)な受験戦争や長引く就職難、婚姻や出産に伴う法外な経済負担などで若者が過度のストレスを感じてかかってしまうようだ。
韓国人特有の、というのは実は正確ではなく、北朝鮮にも火病はあるそうだ。同じ民族に共通ということになれば、文化的、歴史的要素も絡んできそうだ。ただ知人の脱北者いわく「韓国ほど多くはないけれど」。仮にそうだとしたら、あんなに封鎖的で自由が制限され、何よりも南北分断後60年以上も独裁者に牛耳られている北朝鮮より韓国の方がストレス社会だということになる。そして韓国亡命の脱北者たちの多くがこのストレスに悩まされるというから皮肉な話だ。
(U)