抑止力を軽視する朝日流の平和主義こそ戦争を招き入れる「平和の敵」

◆東京のみ独自の1面

 産経の1面コラム「産経抄」が首を傾(かし)げている(12日付)。

 「新聞の1面トップ記事は、編集者がその日一番のニュースだと判断したものを充てる。在京各紙の11日付朝刊は、史上初の米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで開催と決まったことを報じる記事がトップを飾ったが、東京新聞だけは独自性を発揮していた。柳瀬唯夫元首相秘書官の国会参考人招致を取り上げたのである」

 何をどう扱おうと好きにすればよいが、首相秘書官が地方自治体職員と面会したとかしないとかが、核・ミサイル危機や拉致問題よりも重要であるとはどうしても思えない。そう産経抄が言っている。

 それはそうだ。米朝首脳会談の行方は楽観、悲観のどちらに転んでも北東アジア情勢の激変は必至だ。日経12日付は1面トップで、トランプ米政権が北朝鮮の非核化や朝鮮半島の平和体制を構築するための合意事項を盛り込む共同文書の検討に入ったと報じている。

 3面では「(米朝会談の)可否やプロセスが地域のパワーバランスを大きく左右する」とし、「(米中露日の)利害を抱える関係国は影響力の拡大・温存を狙った動きを強める」と熾烈(しれつ)な外交戦を展望している。

 非核化なら日本も査察費を負担する。拉致問題が解決すれば、日朝国交正常化交渉へと進む。小泉純一郎首相(当時)と故・金正日委員長による日朝平壌宣言(2002年)は日本の「経済協力」をうたっていた。

 北朝鮮の拉致を世に知らしめたアベック蒸発事件を1980年1月に報じた阿部雅美元産経記者は南北や米朝間の融和が進んだ場合も「米国も韓国も金は出さない。北は金が欲しい。嫌な話だが、そこで日本の出番となる」とし、「日本の出る幕はない」との見方を否定している(大阪「正論」懇話会=産経12日付)。

◆軍事圧力が対話導く

 ただし米国が「自国第一主義」で朝鮮半島への関与をやめれば、中国が朝鮮半島全体を事実上支配する形になる可能性も否定できず、日本海も黄海も中国の内海と化し、日本にとっては不都合な安全保障環境が生まれるかもしれない(伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員『朝鮮半島 地政学クライシス』日本経済新聞出版会)。

 日経は「交渉が決裂するシナリオも消えていない。ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は米紙ワシントン・ポストへの寄稿で『政権内の誰もこれからの交渉に幻想を抱いてはいない』と語った。ボルトン氏はかねて北朝鮮への先制攻撃論者だった。朝鮮半島で軍事行動に動く選択肢は排除されていない」としている。

 こうして見ると、誰が考えても米朝会談は1面トップもので、「モリカケ」で騒いでいる場合ではあるまい。今回、強硬な北朝鮮を対話に向かわせた最大の要因は何だったのか。そのことを東京や朝日は直視すべきだ。

 それは米国の軍事圧力にほかならない。金正恩委員長はトランプ大統領が軍事行動を起こしかねないと見たから、恐れて対話に動いた。オバマ前大統領のように「核のない世界を」と叫んでいれば、事は進まなかったに違いない。ましてや憲法9条は蚊帳の外だ。

◆日米同盟嫌いな朝日

 ところが、左派紙は憲法と言えば、9条堅持にしか思考回路がつながらない。東京3日付社説は「平和主義の『卵』を守れ」、朝日4日付社説は「平和主義と安全保障 9条を変わらぬ礎として」と、9条堅持のワンパターンに終始し、それが平和主義だと空想を膨らませる。

 朝日社説は「(安倍政権は)日米同盟に頼り、韓国や中国との信頼関係は深まっていない。そのために、朝鮮半島の緊張緩和という大きな流れに乗り遅れつつある」と言う。よほど日米同盟が嫌いなようだ。朝日流平和主義は中国と韓国に擦り寄ることのようだ。南北首脳のパフォーマンスをもって緊張緩和とはお人好し過ぎる。

 軍事力は抑止力となって平和をもたらす。それを怠れば平和が脅かされる。それが歴史の教訓だ。ソフトパワー論で知られる国際政治学者のジョセフ・ナイ氏はヒトラーが欧州侵略に踏み切ったのは英仏が抑止力(軍事力)を軽んじ、融和政策を取ったからだとし、ハードパワーの重要性も指摘している(『国際紛争 理論と歴史』有斐閣)。

 抑止力抜きの平和主義こそ戦争を招き入れる「平和の敵」だ。米朝会談をめぐって早くも朝日流平和主義の正体があらわになったようだ。

(増 記代司)