サウジ「七男の台頭」、若い皇太子の急速な改革に警鐘鳴らす英紙
◆異例の皇太子の交代
サウジアラビアはムハンマド皇太子の下で、経済・社会改革を精力的に進めているが、自身の政策に否定的なイスラム聖職者を拘束するなど、反政府的な活動を弾圧、改革も順調とは言えず、中東の大国サウジの未来に暗雲が漂っている。
英紙ガーディアンは社説「七男の台頭」で、「サウジ史上最も若い後継候補は、反対意見を抑圧しているが、これでは、この砂漠の大国が経済的混乱と見当違いの海外への干渉による混乱から脱することは難しい」と強く警告した。
国防相を兼任するムハンマド皇太子は、隣国イエメンの内戦への軍事的介入を主導してきた。攻撃対象はイランが支援する「フーシ派」と呼ばれるイスラム教シーア派の組織だ。だが、空爆などによる攻撃にもかかわらず効果は上がらず、国内の混乱に乗じて過激派組織アルカイダが勢力を増し、コレラが蔓延(まんえん)するなど、イエメン国内の混乱は増している。
ムハンマド皇太子は6月に副皇太子から電撃的に昇格した。従兄(いとこ)であったナエフ前皇太子は軟禁下に置かれ、事実上のクーデターと言われている。ガーディアンは、異例の皇太子の交代を「苦悩する王国の過去からの決定的な決別」と指摘、改革への動きとして一定の評価をしているようだ。
◆脱石油依存を目指す
ムハンマド氏は副皇太子の時から、改革プラン「ビジョン2030」をまとめ上げ、石油に依存する経済の多様化にも意欲的に取り組んできた。3月のサルマン国王訪日では、日本との2国間協力をうたった「日サウジ・ビジョン2030」で合意した。「脱石油依存と雇用創出のためサウジが追求する『サウジ・ビジョン2030』と、GDP600兆円の達成に向けて日本が追求する『日本の成長戦略』のシナジーを目指す」としており、サウジ原油に依存してきた日本政府も、サウジの脱石油政策に意欲的に協力していく方針を明確にしている。
原油価格の下落による収入減でサウジの財政は逼迫(ひっぱく)している。ガーディアンは、これに対応するためムハンマド皇太子は「民営化と補助金のカットというサッチャー元英首相のような政策を実施したが、このような対応によって王室と臣民との間の社会契約が脅かされている」と、財政逼迫への皇太子の対応が社会的不安定につながりかねないと指摘する。
米紙ワシントン・タイムズは「中東アナリスト、米情報筋は、若い皇太子が王国の秘密主義的な政策立案に非常に大きな影響を及ぼし始めているみている」とムハンマド氏が皇太子即位後、政府内で権勢を振るい始めていることを指摘した。サルマン国王は81歳と高齢で、健康も優れず、元米政府高官は「西側各国の当局者の間で、32歳の皇太子が数週間以内に国王になる可能性があるとの臆測が流れている」(同紙18日付)と指摘した。王位継承間近という観測が出るほど、ムハンマド氏の行動は他国政府の目を引いているということだ。
◆反対派数十人を拘束
その一方で今月に入って、ムハンマド皇太子の政策に反感を持っているとみられる数十人が拘束されたことが、国外からの批判を招いている。拘束された中には、信徒からの支持の強いイスラム聖職者3人も含まれている。
ヒューマン・ライツ・ウオッチは「政治的動機に基づいた拘束であり、ムハンマド皇太子が、言論の自由と法の支配に関する同国の慣行を改善する意思がないことを改めて示した」と非難する声明を発表した。
ガーディアン紙は反対勢力の逮捕を受けて、新皇太子は「抑圧的な王国を21世紀へと導く改革者なのか、地域の不安定化を招く未熟な小君主なのか」とその対応に疑問を呈した。
サウジにとって今後も石油だけに依存する「ワントリック(一つの芸しかできない)経済」(ガーディアン)を続ける道は残されていない。「皇太子にはビジョンがある。しかし、拙速な判断で、そのビジョンは幻へと変わってしまうかもしれない」とガーディアン紙は警鐘を鳴らす。
改革に着手した新皇太子の出現を世界は期待と不安を抱きながら見詰めている。 その一方で今月に入って、ムハンマド皇太子の政策に反感を持っているとみられる数十人が拘束されたことが、国外からの批判を招いている。拘束された中には、信徒からの支持の強いイスラム聖職者3人も含まれている。
ヒューマン・ライツ・ウオッチは「政治的動機に基づいた拘束であり、ムハンマド皇太子が、言論の自由と法の支配に関する同国の慣行を改善する意思がないことを改めて示した」と非難する声明を発表した。
ガーディアン紙は反対勢力の逮捕を受けて、新皇太子は「抑圧的な王国を21世紀へと導く改革者なのか、地域の不安定化を招く未熟な小君主なのか」とその対応に疑問を呈した。
サウジにとって今後も石油だけに依存する「ワントリック(一つの芸しかできない)経済」(ガーディアン)を続ける道は残されていない。「皇太子にはビジョンがある。しかし、拙速な判断で、そのビジョンは幻へと変わってしまうかもしれない」とガーディアン紙は警鐘を鳴らす。
改革に着手した新皇太子の出現を世界は期待と不安を抱きながら見詰めている。
(本田隆文)