インドは歴史が長く深いが、文書や資料を…
インドは歴史が長く深いが、文書や資料をよく保管してきた国でもあるらしい。インド人写真家のダヤニータ・シンさんは、幼少から母親の写す家族写真に親しんできたが、その母親が悩んできたのが大量の書類。
土地相続のためのものだそうだ。そのような環境で育ったために、被写体も個人の書斎、町工場、文書館などのおびただしい書類を取り上げるようになった。それが〈ファイル・ミュージアム〉として結実。
東京都写真美術館で開かれている「ダヤニータ・シン展」で展示されているシリーズ作品の一部だ。写されているのは埃(ほこり)だらけの文書の山。「闘争は善と悪との間ではなく、秩序と混沌の間で行われる」と説明にある。
彼女が日本の京都に来て、旅館で一つの空間が食堂にも寝室にもなり、ヨガ道場にもなる体験をした。その体験が核となって生まれた展示形式だそうだ。ミュージアムは高さ189㌢、幅109㌢のポータブル式構造物。
142点の写真が収納されていて、その中の40点を見ることができる移動式美術館。こうした構造物を10以上作り、全体を〈インドの大きな家の美術館〉と名付けた。家具のような展示ボックスとも言える。
インドの夢と現実を捉えた作品群により、そうした美術館が幾つも展示されている。シンさんは展覧会会期中、観客が観(み)ることのできる作品を次々と替え、イメージも変わる。過去になかった展示方法だ。7月17日まで。