核保有を目指すイランとの「協力」を主張するNYタイムズ紙

◆制裁解除で巨額資金

 北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐって緊張が高まる一方で、米トランプ政権がイラン核合意見直しの意向を表明した。

 これを受けて米紙ニューヨーク・タイムズは社説「イランめぐるあら探し」(24日付)で、「中東不安定化へのイランの行動に対抗するとともに、イランと可能な限り協力する戦略を立てることが、トランプ政権自身にも、世界の安定化にも有益だ」と、イランの核開発の阻止へ圧力強化を主張するトランプ政権にくぎを刺した。

 オバマ政権時に交わされた合意は、今後10年以上にわたってイランの核開発を制限する一方で、対イラン制裁を解除するというもの。イランは制裁解除により、巨額の資金を入手している。

 当初から、イランに渡った資金は、イスラム教シーア派の影響力拡大を進めるイランの野望を後押しすることになるとの批判があった。イランはレバノンに設立した武装組織ヒズボラ、シーア派の一派アラウィ派を支持基盤とするシリアのアサド政権を支援、さらに過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦ではシーア派民兵を動員、IS掃討後のイラクでの影響力強化への取り組みを着々と進めている。また、内戦中のイエメンでは、暫定政権、隣国サウジアラビア軍と戦うシーア派民兵組織「フーシ派」を支援するなど、各地で活動を活発化させている。制裁解除で得た資金が、そのために使用されることは間違いない。

◆利益のない合意放棄

 核開発をめぐってもティラーソン米国務長官が「イランの核保有という目的達成を遅らせるにすぎない」と指摘した通り、核開発を阻止するものではない。合意は事実上、イランに核兵器の保有を認めたものだ。オバマ前大統領は、10年間で国際環境やイランの行動が変化することに期待したようだが、現状では期待薄だ。

 ニューヨーク・タイムズは、トランプ政権の対イラン政策が一定しないことを非難した。発言が二転三転、大統領、国務相、国防相で発言が食い違うなど、政権内のイラン政策に多くの矛盾が見られるのは確かだ。

 トランプ氏は選挙戦中から核合意を非難、破棄の可能性を表明してきたが、今では、態度を軟化させ、見直しを検討している。ニューヨーク・タイムズはこの理由を「イランの核開発が確かに抑制されている」からと指摘した。だが、制裁が既に解除さている上に、一方的に放棄すれば、合意で課されていた核開発への制約は失われることになり、破棄が国際社会にとって利益にならないことは明らか。トランプ政権の方針転換は当然だろう。

 トランプ氏が、イランは中東の不安定化を進め、合意の「精神」に反していると主張したことについては、「理解できる」としながらも、「(核合意は)イランのシリア、レバノン、イエメンへの介入、地域の不安定化をあおる過激勢力への支援を封じ込めるためのものではないはずだ」と批判的だ。

 だが、地域への覇権拡大を目指す「テロ支援国家」イランが核を保有することへの懸念にはどう対処するかについての指摘はない。

◆ひそかに開発進める

 米紙ワシントン・タイムズ紙は翌25日付社説で、イランが依然、核兵器保有の野望を隠し持っていると指摘、「イスラム法学者らの欺瞞(ぎまん)の歴史から見て、オバマ前大統領がレガシー(遺産)として次の政権に渡した責務をトランプ大統領が果たす意思があるなら、法学者らが欺く意図のないことを明確にするまで、イランに疑いの目を向ける権利がある」と、核開発をめぐるイランの動向に注視する必要性を訴えている。

 同紙が22日に報じた通り、イランはひそかに核開発を進めている。将来の核兵器製造に向けた、基礎研究とも言うべきものだ。核保有の意図は依然、明確であり、「精神」ばかりか実質的にも核合意に違反している。

 ニューヨーク・タイムズは、イランで禁固刑を受けた2人のイラン系米国人の釈放のためにも「イラン政府との定期的な接触が必要」と、イランとの「協力」の必要性を訴えるが、現状を見る限り、その先に見えるのは北朝鮮に次ぐ、「核保有テロ支援国家」の出現だ。

(本田隆文)