茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構…
茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)を訪ね、国内外に知られる素粒子加速器を見学する機会を得た。わが国の原子力研究の拠点だ。
加速器は周長3㌔で、筑波山を望む広大な敷地の地下に埋設されており、一部見ることができる。この中で電子と陽電子をほぼ光の速さになるまで加速、正面衝突させ、高エネルギーで新しく生まれた粒子を解析するのだが、その測定器が高さ8㍍もある。
宇宙では当初、物質と反物質が同量作られたが、今の宇宙に反物質は存在しない。その理由を説明した「小林・益川理論」がこの装置を用い実証され、2008年のノーベル物理学賞を得たことは記憶に新しい。
現在、実験的に、より精密な宇宙のビッグバン状態をつくり上げるため、加速器を改良中で、近々従来の40倍の性能を持つ装置がお目見えする予定だ。ここは原子力を用いた元素の製造工場とも言えそうだ。
KEKの見学棟通路の床タイルに、目立つように大きな文字で「物質とは何か」という一文が刷り込まれていた。壮大な研究目標を掲げて邁進(まいしん)するスタッフに敬意を表したい。
反物質の研究は一見、現実社会には応用が利かないと思われがちだが、その成果は既に先端医療器具を生み出している。一例に全身の細胞のうち、がん細胞だけに目印を付けられる「陽電子放射断層撮影」の「PET検査」がある。原子力の素晴らしさを改めて感じる。