「列車が曲がります。ご注意ください」という…


 「列車が曲がります。ご注意ください」という車内放送が大阪の地下鉄で行われていたという。1990年代前半のことだ。その後、放送は「列車がカーブを通過します。ご注意ください」に変わった。「変わってよかった」と『やさしい日本語』(岩波新書)の著者庵(いおり)功雄(いさお)氏は言う。

 「列車が曲がる」を物理的に列車が変形すると受け止めるケースは、実際はほとんどあり得ない。しかし、そうした誤解を生む余地がある、と著者は指摘する。「やさしい日本語」とは言えない。

 日本語ではおなじみの「考えられる」「思われる」も「やさしい日本語」ではない。「自ずとそうなった」という微妙な領域を表す言葉だが、半面、誰が主体なのかが不明確で無責任だ、という話になる。

 本の表題の「やさしい」は「易しい」と「優しい」の双方を含む。日本人が外国人と会話する場合の留意点として言われたものだ。

 「列車はカーブを曲がるだけで、列車そのものが変形するわけではない」というメッセージを含んだ日本語表現の方が、外国人にとっては「やさしい」という論点だ。

 「結論は最初に」「一文にいろいろの内容を盛り込むな」といった指摘は、外国人とコミュニケーションを取る上で重要なポイントだ、というのがこの本の趣旨だ。だが同じことは、日本人同士でも十分に通用する。日本人に、外国人に対するように語ることも時には必要だ。