「人を殺すための予算」で共産党の更迭茶番劇を起こしたNHK討論

◆主張変えない藤野氏

 英国の欧州連合(EU)離脱決定に先週日曜(6月26日)の報道番組は賑(にぎ)わった。参院選の経済政策のテーマにも急浮上し、そのテレビ討論をめぐって前代未聞の展開があった。共産党の政策責任者、藤野保史政策委員長の選挙中の辞任である。

 きっかけは、NHKの討論番組「参院選特集『政策を問う』」だった。藤野氏のほか出演者は、自民党・稲田朋美政調会長、公明党・石田祝稔政調会長、民進党・山尾志桜里政調会長、おおさか維新の会・下地幹郎政調会長、日本のこころを大切にする党・和田政宗政調会長、社民党・吉川元政審会長、生活の党・玉城デニー幹事長、新党改革・荒井広幸代表。

 議題が英国EU離脱の影響への対応から格差・賃上げ問題に移り、概(おおむ)ね次のようなやりとりがあった――。

 藤野氏 私たちは三つのチェンジを主張していて、税金の集め方を変えていく。累進強化、これは本格的にやっていきます。もう一つは税金の使い方を改めていく。軍事費が戦後初めて5兆円を超えましたけれども、人を殺すための予算ではなくて、人を支えて育てる予算、これを優先していく……。

 稲田氏 それは言い過ぎです。日本を守るためですよ。

 藤野氏 ……そして働き方。働き方の改革もしていく。こういう本格的な改革が今必要だと思います。

 石田氏 まず、さっきの取り消した方がいいですよ。人を殺すための予算だなんて、それは大問題だ。

 藤野氏 軍事費ですよ。

 石田氏 まあ、自衛隊が違憲だと言っている共産党だから分からなくもないが…。

 藤野氏 軍事費じゃないですか。

 石田氏 人を殺す予算と言うことは、これは取り消した方がいいです。

 藤野氏 軍事費ですよ。

 石田氏 それはあなたのために言っておきますよ。……

◆防衛と考えぬ共産党

 下地氏 防衛予算を人を殺すための予算というのは訂正した方がいい。

 ……(略)……

 和田氏 人を殺す予算というのは政治家の発言としてまずいと思います。国防は国民の命を守るためにあるわけであって、戦争をしないというのは日本国民、どの政治家も思っている……。

 ――番組討論で藤野氏は発言を取り消さなかった。むしろ、「軍事費だ」と食い下がっており、「軍事費=人を殺すための予算」は党の主張と確信してのことだろう。なにせ政策責任者である。

 共産党は綱領で自衛隊を「事実上アメリカ軍の掌握と指揮のもとにおかれており、アメリカの世界戦略の一翼を担わされている」としている。防衛費も米軍のための「軍事費」とみているのだろう。

 また、昨年来の安保法制をめぐっては、集団的自衛権の行使で「自衛隊が米軍と地球の裏まで戦争に行く」と訴え、「殺し、殺される」などの表現を志位和夫委員長の国会質問はじめ、機関紙「しんぶん赤旗」見出しなどで用いた。

 藤野氏は志位氏から「注意」され、26日のうちに発言を取り消したが、そのコメントには「安保法制=戦争法と一体に海外派兵用の武器・装備が拡大していることを念頭においたものでしたが、テレビでの発言そのものはそうした限定をつけずに述べており、不適切であり、取り消します」(「赤旗」27日付)と、話法上の舌足らず程度の認識だ。

◆選挙のための“更迭”

 それが、28日になると記者会見までして謝罪し、「わが党の方針と異なる誤った発言であり、結果として自衛隊のみなさんを傷つけるものとなってしまいました」と、「深く反省」し、辞任した(同紙29日付)。注意どころか「党の方針と異なる」と、あっさり政策委員長がクビになる――むしろこちらの方が驚きだ。

 党綱領から「違憲」であり「米軍の掌握・指揮の下にある」自衛隊の「解消」を目指し、敵意むき出しに半世紀以上も罵詈(ばり)雑言を浴びせた反戦反自衛隊運動と「軍事費=人を殺すための予算」論は表裏一体だ。だから生放送で口を突いて出るのだ。

 共産党が「人を殺すための予算」発言を不適切だと取り消すなら、その予算で行う自衛隊の活動に対する「殺し、殺される」などのレッテル貼りも不適切で、綱領の不適切も認めてしかるべきだろう。

 それをしていないのだから、この“更迭”は票のため自衛隊への理解を装う茶番劇である。民進党との選挙協力のためであることは見え透いている。生放送が引き起こした民共共闘ゆえの取り繕いにすぎない。

(窪田伸雄)