トランプ氏、同盟国日本への正しい理解を


 2016年米大統領選の候補指名争いで、民主党はヒラリー・クリントン前国務長官が「社会主義者」のバーニー・サンダース上院議員を引き離した。一方、共和党は不動産王ドナルド・トランプ氏をテッド・クルーズ上院議員、オハイオ州のジョン・ケーシック知事が何とか追いかける構図となっている。

現実味帯びる指名獲得

 当初は泡沫候補と揶揄(やゆ)されていたトランプ氏の旋風が続き、指名獲得が現実味を帯びていることは注目せざるを得ない。今月は地元のニューヨーク州で勢いを盛り返し、北東部5州で大勝して7月の全国大会に向け、着実に歩を進めている。

 トランプ氏は、自分が大統領に選出された際に取る内外政策について過激な発言を連発してきた。メキシコ系移民は強姦犯、不法移民流入を防ぐためメキシコとの国境に巨大な壁を築く、イスラム教徒は入国禁止、米国はこれまで自由貿易協定で何も得していない――など暴言を繰り返し、非現実的な政策を唱えてきた。だが、その人気は衰えるところを知らない。

 日本に対する発言でも気になる点が多々ある。誤解あるいは誤りがあれば早急に是正を促すことが必要である。

 トランプ氏は「日本からは数百万台の自動車が来るのに、米国はほとんど売っていない」と述べた。日米貿易摩擦が激しかった1980年代ならいざ知らず、現在の日本の自動車メーカーは米国各地に工場を建設し、数千人の米国人労働者を雇うなど雇用促進に貢献している。

 また「米国が攻撃されても、日本は助ける義務はない。日米安保条約は不公平だ」として、日本の“安保ただ乗り論”を強調する。中国の経済的、軍事的台頭によって、アジアにおける日米同盟の重要性が増しているとの認識に欠けている。

 在日米軍の住宅建設や光熱水費の負担、基地で働く日本人の給料などに充てる「思いやり予算」の存在も忘れてはなるまい。安倍政権も集団的自衛権行使を限定容認し、安保関連法を制定した。アジア太平洋地域は米国にとって極めて重要なはずだ。

 クリントン氏が2月末、日本や中国が「何年も通貨の価値を下げて輸出品を人為的に安くしてきた」として「為替操作を行っている」と批判する論考を米紙に寄稿した。佐々江賢一郎駐米大使は「事実誤認」と直ちに反論した。

 当時すでに民主党候補指名争いの先頭を走っていたクリントン氏の発言だっただけに、日本側の即応は当然だった。労働組合票を意識しての選挙向け発言だとはいえ、日本の誤ったイメージが全米に伝わっては取り返しがつかなくなる恐れもある。

 米大統領候補は米国が自由世界の指導国であることを自覚し、次期大統領として、どのように米国と世界を導くかを語り合わねばならない。

日本は積極的に反論を

 共和党大統領候補として指名獲得が現実味を帯びた今、日本はトランプ氏に正しい理解を持ってもらえるよう反論や説明を積極的に行うべきだ。大統領に当選してからでは遅い。自由主義世界の結束において日米同盟は重要な柱の一つである。