「筍を掘りたる穴へ土返す」(藤松遊子)。食卓に…
「筍を掘りたる穴へ土返す」(藤松遊子)。食卓にタケノコの煮物が出て、久し振りに春の香りを楽しんだ。今では一年中缶詰や干物などで味わえるが、やはり旬のものが一番。
桜の花が散った代わりに、タンポポの花が目立つようになった。タンポポも料理の仕方によっては食べられる。野菜とは野草から来る言葉である。自然の中で食べられる野草を見分けた先人の知恵を学びたい。
食欲は人間の生存に欠かせない基本的な欲求の一つ。そのために料理を工夫し、おいしいものを求めてきた。ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」も、そのようにして生まれた。
だが、考古学や民俗学に造詣の深い文学博士の樋口清之氏によれば、平安時代は食についての記述が少ない時代だった。「源氏物語」も「枕草子」も、ほとんど食べ物が登場しないと述べている(『食べる日本史』朝日文庫)。
これは「この時代の食べ物がまずかったからであり、楽しみの対象ではなく、食べることに喜びを感じない生活を送っていたからだ」(同)という。背景には、性欲や食欲を卑しいことだとする仏教思想があったことも間違いないだろう。
現在は、余った食材や賞味期限を過ぎた商品を簡単に捨てる半面、食品偽装も少なくない。それも問題だが、テレビなどで過剰に放映されるグルメ番組も気になる。平安時代のように卑しむ思想は極端だとしても「食」を考え直すことも必要ではないか。