脅威に目覚める「新東亜」 サード配置の意義を強調

対中配慮吹き飛ばす北の核

 ペリーの黒船の砲撃で泰平の眠りを破られた日本は、それまで頑なに続けていた鎖国を解き、一気に開国、大政奉還、明治維新に突き進んで行った。このように歴史の中には一発の砲声が膠着(こうちゃく)した局面を打開するケースがある。

 北朝鮮による核実験と弾道ミサイル発射はまさに韓国の目を覚まさせた。これまで中国の顔色を窺(うかが)って態度を決めかねていた高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)の在韓米軍配置を本格的に検討し出したのだ。

 こうした政府の態度決定をみて、メディアもサードの“意義”を改めて取り上げ始めている。東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(3月号)で、金煕相(キムヒサン)韓国安保問題研究所理事長がその意義を説明する。

 金理事長は、朴槿恵(パククネ)政府が方針を定めたのは、もはや北朝鮮が「核・ミサイル」を諦(あきら)める可能性はないと判断したからだと指摘する。そのため「『抑制および防御体制』の確立」をすべきであり、「究極的には『自由統一』以外で北朝鮮の核ミサイル脅威を除去する方法がない」と断じている。

 しかし、「自由統一」が容易(たやす)く短期間にできるものではない。そのため、優先的に北の核ミサイルへの防御体制をとる必要があり、現在それに最も適しているのがサードなのだということだ。

 これほど自明なことが核実験、弾道ミサイル発射を経てようやく理解された、ということに驚かされるが、少なくとも韓国政府が北朝鮮の核ミサイル脅威を認識し、中国がその抑制にならないことを直視し、日米との安保体制確立が韓国の生存に必要だと気づいたことは、ひとまず歓迎すべきことだろう。

 金理事長の説明に戻る。「サードは大気圏外で敵の弾道ミサイルを迎撃できる唯一のミサイル防衛体系」である。「迎撃射程距離が40~150㌔㍍以上で、防御範囲がはるかに広い中高度『地域防御体系』で、ソウルなど人口が密集した大都市を防御しようとするなら、少なくともサードでなければならない」という。

 では、中国はなぜそれほど射程が長くもないミサイルに反対してきたのだろうか。サードは迎撃ミサイルであって、攻撃ミサイルではない。中国が嫌ったのは、むしろ正確な打撃を導くレーダーの存在の方なのだ。

 金理事長は、「中国が主に問題にするのはAN/TPY-2レーダー、いわゆるXバンドレーダー」であり、これは有効探知距離が推定1000㌔㍍に及び、韓国に配置されれば、中国の主要都市や軍事施設がその範囲にすっぽり入ってしまう。そのため、中国は韓国に対しサードが配置されれば、「韓国が中国の攻撃目標になりうる」と脅迫まがいのコメントまで出して猛反対しているのだ。

 しかし、中国の言い分は極めて一方的だ。金理事長は、「中国は約200個の衛星で韓半島はもちろん日本の隅々まで監視しており、ミサイルもあちこちに配置している。白頭山(中国名・長白山)にも射程3200㌔㍍、500㌔㌧の核弾頭を装備した東風21(ミサイル)を配置しているではないか」と反論し、さらに、「中国が2010年白頭山に基地を設置するとき、韓国の了解を求めたことがあるか」と反問する。

 現在、サード配置に向け米韓で協議が進められていることに対して、韓国内では「中国の経済報復」を恐れる声が出てきている。しかし、冷静に考えれば、中国が韓国に経済報復すれば、自国の首を絞めるようなものだということはすぐに分かる。中国の意向に右往左往してきた韓半島の遺伝子が騒ぎ出すのは理解できなくもないが、1895年の日清講和条約で「朝鮮の独立」が保障されてから、既に120年以上もたっている。韓国も国力、国格に見合わない過剰反応はそろそろやめるべきだろう。

 むしろ、反対運動を主導する核心勢力・人物らが中国や北朝鮮の意向を汲(く)んだ活動家である可能性にも目を向ける必要がある。わざわざ辺野古にまでやってきて、他国の基地問題に首を突っ込んでいる韓国人活動家もいる。

 サード配置の意義を説く冷静な報道が増えてきつつある。

 編集委員 岩崎 哲