俳誌「きたごち」の主宰者・柏原眠雨さんは…


 俳誌「きたごち」の主宰者・柏原眠雨さんは仙台在住の俳人。句集『夕雲雀』で俳人協会賞を受賞した。先日、授賞式が都内のホテルで開かれ、選考委員長の山崎ひさをさんが講評した。

 句集には平成17年から25年まで7年間の作品が収録されているが、その間の最も大きな出来事は東日本大震災。「仙台在住の作者は上京中で、1週間後に新潟を経て自宅に戻りました」と山崎さんは事情を語る。

 柏原さんは友の安否を尋ねて見て回り、目にした情景を詠む。「避難所に回る爪切夕雲雀」。山崎さんは「たった一つの爪切りが罹災者の間を回って重宝に使われていた。被災者の生活の情景です」と解説。

 「町ひとつ津波に失せて白日傘」など、住民の暮らしぶりを即物的に淡々とうたっている。山崎さんは「昂ぶることのない穏やかな詠みぶり」を高く評価した。柏原さんは哲学者で東北大名誉教授。

 本業とは違った心の鍛錬を、師の故沢木欣一に学んだようだ。柏原さんは「平凡な写生句の中に趣が込められていればそれでいい」と話す。新人賞は『封緘(ふうかん)』の藤井あかりさんと『遅日の岸』の村上鞆彦さん。

 選考委員の今瀬剛一さんは2人の共通点として「若々しい意欲」「キラキラした感性」を挙げた。評論賞は『ゆっくりと波郷を読む』の依田善朗さん。選考委員の片山由美子さんは、依田さんが一次資料に当たって、独自な読み方をした点を讃えた。