テレビ中継の画面には、フィリピン・ルソン島…
テレビ中継の画面には、フィリピン・ルソン島中部カリラヤに建立された「比島戦没者の碑」の前で、天皇、皇后両陛下の御到着を待つ約150人の元日本兵や遺族の姿が映し出されていた。小雨が降っているようで、ビニールのカッパや傘も見える。生憎(あいにく)の天気だなと思った。
しかし、御到着になられる頃にはもう雨は止んでいた。両陛下は日本政府建立の慰霊碑に白菊の花束をお供えになり深々と拝礼された。両陛下が元日本兵や遺族一人一人とお話をされている頃には、陽も差していた。
偶然と言ってしまうこともできるが、気流子にはそうは思えなかった。両陛下が到着される前に降っていた雨は、この島での悲劇的な戦いの末に命を落とし、愛する家族の待つ故国への帰還を果たせなかった戦死者たちの無念の涙のようだった。
それが御到着直前に上がり、穏やかな日差しに変わったのである。それは、お姿を目にして、大きな慰めを得た戦死者たちの心の現れのように思えた。日本から参列した遺族たちも思いは同じだろう。
サイパン、パラオなど海外の激戦地を訪ね、慰霊の旅を続けられる両陛下。そのお心は戦没者の心にしっかりと届いていることを実感する一時であった。
今回の御訪問で両陛下は、フィリピンの戦没者が眠る「無名戦士の墓」にも供花され、心を込めて拝礼された。「全ての戦没者を慰霊したい」という強いお気持ちからだった。