「父祖の地に闇のしづまる大晦日」(飯田蛇笏)。…
「父祖の地に闇のしづまる大晦日」(飯田蛇笏)。一年の最後の日である。大晦日を迎えて、先祖たちが暮らしてきた地が闇の中に静まっているという。大地に根差した蛇笏の質実な生活を感じさせる。
大晦日は「おおつごもり」ともいう。つごもりは「月隠」と記し、月の終わり、月の死を意味した。太陽も同様に、日没と日の出、死と再生を繰り返すことで、月日という時間が流れていく。
月の死と再生が繰り返されて、「おおつごもり」となり、年は古い生命を葬り、新たに生まれて新年となる(竹下数馬著『「おくのほそ道」の虚構と真実』)。この説明を念頭に置くと蛇笏の句もいっそう味わい深い。
大晦日の夜、比叡山延暦寺で行われるのが、追儺式だ。古い年を葬るためには、人も国も、その年に犯した悪行を贖罪し、清算してこそ、吉祥を祈り、新しい年を迎えることができるのだ。
根本中堂と、かがり火の灯された前庭を舞台に行われる、演劇の源流を示すようなドラマだ。黄色の面の鬼は“むさぼり”、赤の面の鬼は“怒り”、緑の面の鬼は“ねたみ”を表しているという。仏教でいう三毒だ。
それらを1匹ずつ、錫杖を持った修行僧が退治していく。最後に出てくるのはすべての悪の根になった最強の鬼。修行僧は改心させた3匹の鬼を指導して、「行け」と、最強の鬼に立ち向かわせる。平安時代から続いてきたこの儀式には、人の心に深く訴えるものがある。